【狂戦士たち】
【狂戦士たち】
「では、話を進めましょう。そのジオラマの制作にはどれくらいの時間がかかりますか?」土門が切り出した。
「完成度を高めるには、2〜3日は欲しいところね」
「もう少し早くなりませんか?」
「急いでも丸1日はかかるね」
「あっ、それは困ります。この義体は今日中に返却しなければなりません。今回の旅行でお金をほとんど使い切ってしまったので、次に来るのはかなり先になってしまいます」
「それは、困りましたねぇ……」いつもなら即座に解決策を提案する土門が、珍しく長考している。
「あの、オンラインじゃだめなんですか?」意外と簡単なことに気づいていないのかもと思い、未知はたずねてみた。
「はい、それは出来れば避けたいんです。これはあくまで噂ではありますが、『システム』に害をなすと看做された出場者は監視対象になり、『ゲーム』で勝ち進むことが難しくなるようにその情報が利用されると言われています。資金力が乏しいチームは当局にマークされる可能性が高いので……」
「えっ、なら、この会話もセレーネさんの義体を通して傍受されているんじゃ……」瞬が疑問を呈した。
「さすが鋭いですね、鉄男くん。その可能性はあります。ですが、恐らくやっていないでしょう。『システム』は何より効率を重視します。この程度の会話は世界中のいたるところでなされているので、全てを取り扱うには相当な処理能力と電力が必要になります。ですから、『ゲーム』にエントリーするとか、不穏当な言葉と結びつくとか、そういった場合に監視を強めるシステムになっているはずです」
「ふおんとう?」未知がたずねた。
「私、わかります。『テロ』とか『革命』といった言葉ですよね」
「あっ、バカっ!」
「何よ、馬鹿とは失礼ね」
「まあまあ、一度くらいでは恐らくマークされないでしょう。ただ、今後は用心するに越したことはありません。オンラインでは、あくまで趣味の話をしている体でやり取りをしましょう」
「それはそうと、具体策を練る必要がありますね」
「ダークウェブとかは?」瞬が提案した。
「ダークウェブはそれ自体リスクがありますし、『システム』にとっては障壁にはならないでしょう。むしろ重点的に監視している可能性さえあります」
「では、伝書鳩なんてどうですか?」今度は泉美が提案した。
「バカっ、そんなの使えるわけないだろう?アメリカと日本だぞ」
「また馬鹿って言ったわね!」
「まあまあ、さすがに伝書鳩は無理でしょうが、発想としては面白いですよ。『システム』が無視するようなオールドテクノロジーは選択肢となり得ますね」
「オールドテクノロジー?」未知がたずねた。
「例えばファックスのようなものです。今でも使っているのは日本くらいのものでしょう。アメリカに敵対している国家や反体制派が使っていませんし、ノイズの入りやすさや一度に転送できる情報量の少なさゆえに『システム』の監視対象から外されている可能性が高いと考えられます。一方、一般的な通信方法でどれほど暗号を強化しようとも、『システム』の能力を鑑みれば、その監視を逃れるのは容易ではありません。ならば、いっそ無視される方に賭ける方が勝率は高いと言えます」
「ファックスですか。それなら職場にも家にもあります」
「えっ、みっちゃん、ファックスなんか持ってんの?」
「ええ、生放送のテレビにファックスで投稿すると、紹介されやすいのよ」
「テレビか。あんま見ないから知らなかったよ。でもさ、問題はアメリカだよね」
「そうですね。もう半世紀以上も前からほとんど使われていませんからねぇ……」
「あの……ファックスとはどういうものでしょう?」セレーネがたずねた。
「電話回線を利用して、文字や図などを送信する機械のことです。形ですか?そうですねぇ……固定電話機のような……と言っても分かりませんよね……うぅむ……どう説明したら良いものか……」博士が考えあぐねている間に、未知がスケッチブックにささっとイラストを描いた。
「こんな感じのものよ」
「あっ、それなら曽祖母の部屋にあったはずです!」
「マジで!?ひいお祖母様、ファインプレーだわ!」
「後は紙ですね。アメリカ国内の端末にデジタルデータで保存していたら、『システム』の監視網に引っかかってしまう可能性が高まります。かと言って、ペーパーレス化が進んでいるアメリカで紙を大量に購入すれば、怪しまれるかも知れませんし……」
「それも大丈夫です! 曽祖母の日記は紙で物理保存されていました。その裏を使うことができます!」
「すごいわ!あっ、でも……大切な日記をそんな風に使ってもよいものかしら……」
「曽祖母は『月影の戦士』が大好きでした。皆さんとの通信に使われるなら、彼女もきっと喜んでくれるはずです」
「そうね!きっとそうだわ!これで準備OKね。ねぇ、せっかくだから、このチームに名前を付けない?」
「なら、ちょうど7人だから『七人の侍』にしましょう!」
「いや、それはどうだろう」
「何がいけないのよ!」
「いや、俺たち侍じゃないし、そもそも出場するのは2人だし」
「そういえば、出場の際のチーム名も決めていませんでしたね。それをそのまま我々のチーム名にしてはいかがでしょう。セレーネさんは何か希望がありますか?」
「では…… ”Lunatic Warriors” でお願いします」
その瞬間、メンバーたちの目が輝いた。ただ一人、瞬を除いて。
「それは『月影の戦士』の英語名ですね」
「はい。私はこの言葉に導かれてここに来ました。このチーム名で皆さんと一緒に戦いたいです」
「素敵だわ!私たちに相応しい名前ね!あんたもそう思うでしょ?瞬!」
「えっ、あぁ、まぁ……」
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