換金と海洋ギルド

 

朝そこら辺を歩いていたら、図書館の警備員が行方不明になったと風の噂で聞いた。ついでに鍵が開かなくなったとも。


アハハ! いやー面白い。


岩場からバイオスフィアを持ってくるまでの間の僅かな時間で、人ひとりいなくなったことが王都全体に伝わってるとは。


さて、実験をするにあたって問題となるのは場所と材料だ。


あの集落は小さかったから私で囲えたが、流石に王都全体は維持するのが難しい。それに、そこまで大きなドームは他の国から来た船で簡単に見られる。


実験の邪魔をされてるのはストレスだし、下手したらまたあの攻撃を受ける可能性もある。ニンゲンは弱い分よく群れるからなぁ。


ここから離れて小さな集落をまた襲ってもいいんだが……。


朝日を受け輝く街並みを歩いていると、すれ違うニンゲンが増えてきたように感じる。


……時計がないから時間が分からない。この星マジで科学レベル低いなぁ。せめて目立つところに日時計でも置いておけばいいのに。


朝食……此処セント・アトラは魚が採れるわけだから、当然魚料理が多い。ただ私はお金を持っていないので何も買えない。


ニンゲンに紛れるんだ。娯楽に使うお金は持っているのが自然だよな……。刀の魚、スチールフィンから採れる金属は売れるらしいからそれでいいか?


質屋の場所は喰ったニンゲンの記憶になかったから自分で探すしかないか。



「─海洋ギルドで……?」

「はい! この国は他の国と違って、漁船や輸送船の護衛が主な任務なので途中に採れた素材はそこで売るんです!」

「なるほどな」


知識としては知っていたが実際に行くのも面白いか?


ベンチに横並びで座って女と話す。どうやらこの女、海洋ギルドの職員らしい。今は休憩中らしい。始業前に休憩……? ま、何でもいい。


​海洋ギルド、私の記憶で近いのは……創作物だが『冒険者』だな。便利屋の組合の方が近いか?


うん、便利屋だな。やる事は便利屋のそれとほぼ同じだ。


……この私がニンゲンの為に、なんて考えると楽しくない。やるなら私の力になるように、だ。


階級が上がると珍しい生物がいる海域で戦闘をして撃退したり、むしろそれを目当ての狩りに行くらしい。


なるほど海域か。その船に海の中から付いて行けば横取りできるな。密航でもいいが。


「ギルドに所属してなくても売れるのか?」

「はい、売れますよ! 出来れば魔法使いのあなたにはギルドに所属してほしいなぁー、なんて思ってますけど」

「アッハッハ! 正直だな!」

「よく言われます!」

「気が変わった、面白そうだし入る!」

「いいんですか!? ありがとうございます! それじゃあ行きましょう!」


女が私の手を取ってベンチから立ち上がり、海洋ギルド本部がある方向へ引っ張って歩き始めた。


おお、活きがいいなぁ。


「あ、そういえばスチールフィンのヒレはどれくらい持ってるんですか?」

「そうだな……」


不自然に思われない程度だと……。


「4枚だな」

「おぉ、凄いじゃないですか! でも、それなら鍛冶屋に……魔法使いに剣は要らないか、なんでもないです!」

「アハハ、面白いな君は。そういえば名前は?」

「私はタカナカプル、みんなからはカプルって呼ばれてます」

「そうか。私はヴェスティ・アニマルだ。よろしく、カプル」

「こちらこそお願いします、ヴェスティさん!」



錨を模した看板に、タコと交差した剣のエンブレム。


木で造られた建物はまるで、使われなくなった大きな木造船だ。入り口の扉が金属なのもそれらしい。


どことなく海賊っぽい雰囲気があるが、これでも国家が運営している組織だ。


「いい建築だな」

「ですよね!」


ふたりで中に入る。


受付のカウンター、仕事の依頼書が貼ってある掲示板、酒場とそこで談笑する多くの男女。


広いな! しかもかなり賑わってる!


「こちらです!」

「ああ」


カプルがカウンターの中に入り、私はカウンターの前に立った。


「それでは、スチールフィンのヒレをお願いします」

「これだ」


ボストンバッグの中に手を入れた瞬間に、スチールフィンの背びれを4枚作成。


あたかも最初から入っていたように取り出した。


「おぉー! かなり質がいいですね! えーっと、これなら……」


手元のマニュアルか何かを見て、少し考えた後にお金の入ったキャッシュトレイを差し出した。


「22000ゴールドとなります!」

「……こんなものか」

「この国ではそこまで珍しくは無いですからね。そこそこ釣れる厄介者です」


他の国ならもっと高く売れるか。


トレイから硬貨を受け取りバッグに適当に入れる。


「え、財布とか……」

「内側にポーチが付いてるんだ」

「ああそうでしたか! 失礼しました」


ま、嘘なんだがな。


「それでは海洋ギルド所属の手続きを行います。こちらの用紙にご記入をお願いします」

「分かった」


紙か……。


同時に差し出されたペンで記入していく。


ま、当然と言えば当然か。よっぽど科学が発展してるとこじゃないと大体が紙なんだよな。一番発展してるとこは体内に埋め込んだチップとかだったからな、私も偽造には苦労した。


性別……女でいいか。私は遺伝子的にどっちにもなれるがニンゲンとしての姿は女だし。


年齢……これいるか? うーん、20にしておくか。誕生日は8月8日で。というか今って何月何日だ?


途中まで書いたところで手が止まる。


「属性……って、火とか水とかのか?」

「そうです! あぁ、安心してください。一般には公表されませんし、ギルドでしっかりと管理しますから流出もしませんよ」

「そうか」


とりあえず水……と一応火も書いておくか。


属性は1か2種類使えるニンゲンで8割、3種類が残り2割、4種類以上はほぼいない。


「これでいいか?」

「……はい! ありがとうございます、会員証の作成をしますので、そちらでお待ちくださいね!」

「分かった」

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