不法侵入

 

魔法に関する本はどこかな?


図書館の案内掲示板を見て魔法に関するコーナーを探す。


参考図書……歴史……地理……工学、科学……後は子ども向けコーナー……魔法学は? ……あ、二階か?


……ふむ、面倒だな。わざわざ図書館に来たが、これならそこらの魔法使いから記憶を読んだ方が早いな。


一応、魔法の歴史を調べてみるか。国の歴史とかは歪められてる可能性があるが、魔法は…………何冊か探すか。



……つまんないな、歴史って。いつの時代も宗教宗教、私が求めているのはニンゲンの信仰なんかじゃなくて進化に使える力なんだ。『女神の神話』じゃなくて魔法を寄越せと言っているんだ。


本を元の位置に戻し、2階に上がる。


コツコツとブーツの音が無人の図書館に─


「だ、誰かいるのか?」



壁際に寄って擬態。


警備員が2階から、懐中電灯のようなもので照らしながら階段を降りてくる。


「誰か──」


そこ。


─トスッ


首に青いガラス状の触手を刺して毒を入れ、気絶させたところで触手を脳まで伸ばし記憶を読み取る。


今知りたいのは魔法に関する知識、すなわち意味記憶。何度もニンゲンの脳を見てきたからな、これも慣れたものだ。


魔法に関する本の情報と内容をある程度把握した。


気絶したニンゲンから触手を抜き取り、今起こった記憶を消……あ、中枢神経。うーん、見事な切れ味。スパッと切れちゃった。


あー、じゃあしょうがないか。警備員いっぱいいたし一人くらい喰っても平気でしょ。


─どろり



さてさて……お、あったあった。これとこれとこれとこれ。


過去、私と同じように魔法について疑問に思った人が纏めた『研究日誌』だ。作者は『コーラリア・リール・コーラリア』。


この人は生まれてから60年を全て魔法の研究に捧げたようで、『変人貴族』や『海洋卿』と呼ばれていたらしい。既に死後から100年程が経っている。……この国随分長い事栄えてんだな。科学がロクに発達してないのにやるなぁ。


私がこの研究日誌を選んだ理由は、このコーラリアが『魔力という存在の解明』という研究を行っていたからだ。


まぁつまり、私の研究である『何故ニンゲンにしか魔法は使えないのか』という問いに通じる部分があるからだ。


他の本は魔法の分類だとか階級だとか、魔法によって生活を豊かにするだとか……後は表面上の応用テクニックみたいなものばかりだった。


この本も研究の副次的なものが今の魔法に応用されているが、あくまで副次的なものだ。やはり基礎を学ぶことは何事にも活かせるという事らしい。


近くの席に座り私は研究日誌を読み始めた。



中々面白かった。


あっという間に四冊を読み終えてしまった。


とはいえ、自分の感覚と実際の時間はズレるものだな……少し外が明るくなっている。はぁ、私の情報処理能力がかなり失われたのを実感するよ。


もっと多く喰って取り戻さないとな……。


ま、そこは追々だ。


ニンゲンが生涯を掛けた研究日誌の内容からは、多くのことを知れた。


その中から私の研究に使えそうな情報を抜き出すと……。


ひとつ、魔力の貯蔵量は個人によって差がある。


ふたつ、魔力の貯蔵量は遺伝しない。


みっつ、肉体の体積と魔力の量に相関はない。


よっつ、魔力に重さはない。


いつつ、感情豊かなニンゲンほど魔力の回復が早い。


個人的に好きなのは5つ目だな。これは実験の内容が面白かった。


多くのニンゲンを使って実験したのだが、その内容は『意図的に感情を操作する』というものだ。


分かりやすく言えば、普通に待つよりもナイフを突きつけて恐怖させた方が早いということだ。


このニンゲンは薬とか催眠とか色々試し、結果として複雑な感情よりもシンプルな感情に偏っていると回復が早いと分かったようだ。様々なことを考える大人よりも、単純な子どもの方が早い傾向にあるとかなんとか。


ニンゲン以外にも感情を持つ生物はいる。犬・猫・イルカはもちろん、おなじみタコにもある。が、やはりニンゲンであることが重要なようだ。


……そういえばやってなかったが、遺伝子操作によって生まれたデザイナーベイビーはニンゲン判定か? あー、さっきの食べすに取っておくべきだったかぁ。


ともかく感情というのは脳から生まれるものだ。つまり魔力・魔法は脳に関係があることの証明にはなってる……のか? そこら辺は研究日誌も曖昧なんだが。


このニンゲンは結局、『魔力という存在の解明』を終えることが出来なかった。なんとかして物理的にあらゆる方法で観測を試みていたが、どれも失敗に終わった。


……ま、最後まで諦めなかったことは素直に凄いと思うぞ。過去にもそんなニンゲンがそこそこいたが、大抵は『仇討ち』とか『復讐』とかそういう変な理由だったからなぁ。それに比べて、自ら課した命題を死ぬまで続けるなんて素晴らしいぞ。やるじゃないか。


お前の研究は時を超えて私の知識となるのだ。光栄だろう?


しっかし、魔法というのは考えるほど分からなくなるな。


遺伝しないのに脳が関係している。かと思えば脳以外の肉体は関係がないときた。


……遺伝子情報以外、肉体以外のどこかからエネルギーを得ているなんて……なんッッッて面白い!


さてさて、どんな方法なら魔力を観測し利用できる? この星のニンゲンには何があるのかな?

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