スキル・グレイブ・オンライン~FPS一筋の男、MMORPGを制す~

草凪 希望

第1話 優勝賞品は……?

 西暦2045年。VR技術が発展し、完全没入型VRシステム、通称フルダイブシステムが確立され、一般的に普及され始めてから数年が過ぎた。今でこそ快適なゲームプレイが出来ているが、技術が確立して間もない時はそれはもう酷いものだった。高すぎるグラフィックに機体そのもののスペックが追いついておらず、数少ないフルダイブゲームには期待に満ちた全世界の同志諸君ゲーマーによる同時接続にサーバーが悲鳴をあげ、結果としてラグが絶えずまともなゲームとして成り立っていなかった。

 ゲーム界の革命ともいうべきVR技術の発展はすぐに終焉を迎えるかと危惧されたが、多数のゲーム会社の必死の取り組みによりその事態は回避された。

 従来のヘッドディスプレイの他に、脳内情報の読み取りの高速化と、サーバーへの接続の円滑化を実現したヘルメットタイプの機体も発売され、更にはリクライニングチェアタイプの機体、果てにはカプセルタイプまで……。

 まあ、後者は値が張ってしまうので一般人には中々手の出すことのできない代物であるが、ヘルメットタイプは十分学生でも手の届く範囲内で、ヘッドマウントディスプレイに至っては安価で入手することが出来、一家に一台レベルで普及されている。

 一応俺もヘルメットタイプのVRギアを持っているのだが、俺はある分野(FPS)においては一応才能を持っていたらしく、公式大会で見事優勝を勝ち取ることが出来た。

 その優勝賞品であるリクライニングチェアタイプの機体に横たわりながら、俺は一言。

「Let’s go」

その一言で、現実から意識が隔離され、電脳世界に飛び込む。




――――ファーストパーソン・シューター。





 通称FPSと呼ばれるそれは、ファーストパーソンという読んで字の如く、一人称、つまり自分視点で展開されるシューティングゲームを主に指す。銃器を持ち、リアルタイムでプレイヤーと対戦することを主軸としたゲームに、俺は人生を費やしかねないほど楽しんだ。

 たかが情報――――否。違う人間と対戦することに楽しみを見出した俺は、徹底的に研究と検証を重ね、プロにも通用するレベルにまで成長した。

「おーっす。みんな来てる~?」

 その結果がこれである。血と弾丸が飛び交う世界、『Synthetic Barrage〜 Overload Tactics〜』、通称、SBOT。

 公式大会にもかかわらず、国内のプロゲーマーからアマチュアまで、あらゆる人間が参加している大会の決勝へ、二連覇に向けた参加を決め込んでいた。

 前回はリクライニングチェアタイプの機体が送られてきたが、今回は何がもらえるやら。

 おっと、もう優勝するつもりでいた。油断が何を産むか知れたもんじゃない。気を引き締めないと。

「おう傭兵A!今頃来やがったか!お前以外はもうインしてるぞ!」

 声のした方向へ振り返ると、そこには俺のフレンド兼、今回のチームの『ピロスケ』が手を振っていた。それを見て俺も手を挙げて応じる。

「ピロスケ、レイファンはまあそこらへんぶらぶらしてるとは思うけど、ユズハとクロノは?」

「ユズハはリコイルの弾薬を店で買い込み中、厨二は今頃ヴォイドのメンテナンス兼鑑賞してる」

「ユズのやつまさかこの大会でバクをやるつもりか? 必勝法だけど運営の意図しない挙動グリッチすれすれだろアレ?」

 俺が顔を引きつらせながら言うバクというのは、ユズハの持つロケットランチャーの特殊弾に宿る空間歪曲型のグリッチ現象。 発動すると爆風が拡張され、地形や判定が一時的に不安定になる。 理論上は誰でも使えるが、発動条件が極端に繊細で、実戦で安定して扱えるのはユズハのみ。 彼女の静かな感覚と、弾への語りかけが《バク》と共鳴し、現象を“なだめる”ように制御しているという技だ。……一見すると最強に見えるが、《バク》は繊細な感覚で発動するグリッチであり、少しでもタイミングがずれるとただの爆発に終わってしまう。爆風は広がりすぎることがあり、味方を巻き込む危険もある。空間の歪みは予測不能で、地形が崩れることもあるため、戦術的には不安定。さらに、短時間で連続して使うと弾が暴走し、爆風が制御不能になることもある。バクは使用回数に応じて弾薬の構造を不安定化させる傾向がある。 一定回数を超えると、弾薬は装填可能な状態にあっても発射できなくなる。

 もちろんこの技……というか、常勝手段はすぐに運営に対策された。公式の対策としては、バクの発生条件を制限するための使用間隔の調整と弾薬の安定化処理が導入されている。 一定時間内に複数回の発動を行うと、弾薬が強制的に通常モードへ切り替わる仕様が追加された。 また、弾薬自体に識別タグを付与し、グリッチ反応が検出された場合は自動的に装填不可とする制御が行われている。 これにより、バクの暴走や弾薬の消失現象を未然に防ぐことが可能となったが、ユズハのような特殊な使用者には依然として例外的な挙動が確認されている。が、公式大会であればその心配は無い。

 まあ、正々堂々という点では忌み嫌われる類の技だから、公式大会でやるやつなんて滅多にいないんだけどさ。

「ユズハのやつバクスレの筆頭だもんなぁ……まさか公式大会でもやるとは」

「この大会でSBOT引退するらしいぜ?だから最後にドでかいのぶっ放すんだとさ」

 バクスレというのはこのゲーム、SBOTのバク強時代が修正されてなかった時に某掲示板で賑わったスレッドである。ユズハ……俺のチームメイトが立案し、広めてしまったのだが、一時期は本当にロケットランチャーを持っている相手しかいなかった。戦場に飛び交うのが弾丸ではなく砲弾であり、空中でぶつかり合って爆発が巻き起こる……。その様子がまるで爆弾のようだからバクと呼ばれるようになった。

「クロノの具合は?」

「僕の愛銃なら3km先の相手もヘッドショット余裕さぁ……!とかほざいてる」

「上々。あいつが本調子なら安心だな」

 クロノ。一応成人しているらしいが、現役の厨二病。スナイパーライフルをこよなく愛し、このゲームにおいてもスナイパーしか使用しないという拘りを持っている。ただ、その分スナイパーの扱いは並外れていて、空気抵抗などの物理演算が働くこのゲームにおいて、現実と同じ射程範囲で撃ち合うことが出来るという変態ぶり。……俺と対戦して、敗北してからなんだかんだでフレンドとなり、今に至る。

「おっす軍曹!遅かったな、Bot撃ちはしなくて平気か?」

「おうレイファン。カフェイン摂取もしてきたしコンディションは完璧」

 レイファンこと風間零真とはVRMMORPG界隈ならばトップランカーにして俺のリアフレである。動画配信サイトで顔出しし、その好青年フェイスをそのままゲームに反映させている彼は国内外問わず多数のファンを獲得している。FPSはあまり得意ではないみたいだが、大会の人数の埋め合わせとして呼んだのにも関わらず、俺の誘いに応じてくれた優しい奴でもある。

「変態の立ち回り期待してんぞー?あ、そうだ。この大会終わったら話があるんだけど良い?」

「了解。またなんかのゲームの誘いか?」

「まぁそんなとこ。でもまぁ今はこの大会に集中してくださいな」

 レイファンは俺の背中をバシッと叩き、サムズアップして笑顔を浮かべる。

「お、ユズとクロノ。そろそろ始まるから作戦立てるぞ」

 ロケランの弾を買い込んだらしいグレポン丸と、指先を確認しながらクロノがこちらに向かってくるのが目に入る。そして、テーブルに座ったのを確認したら、ピロスケが地図を広げる。

「ルールは『コントロールポイント』で、2ラウンド先取のチームが勝利なのは変わらんが、マップが【荒廃の区画】なんだよなぁ...」

「げっ、マジ?俺あのマップ嫌いなんだけど」

 露骨に顔をしかめるレイファンをまぁまぁと窘め、脳内で戦場の構図を描く。

 コントロールポイント。Aimsにて人気のゲームモードであり、大会でも主にこのルールが用いられる。ルールとしては、5対5の対戦形式で3箇所のコントロールポイントと呼ばれるポイントを全制圧するか、敵チームのプレイヤーを全員キルした方の勝利となる。ポイントを制圧するもよし、敵陣を偵察させるもよし、プレイヤーを襲うもよし。この自由要素が人気たる所以でもある。

「相手って紅蓮隊でしょ?あいつら名前からして凸ってきそうな名前してるくせにキャンプするから嫌いなんだよねぇ……しかもマップも砂多そうなマップだし」

「まあそういう作戦なんだから仕方ないだろ。キャンパーならキャンパーでユズが刺さるじゃねえか。それに、軍曹のやつがやってくれるだろ」

「言ってくれるね。まあ、開幕一人は持ってくつもりだけど」

「まーた変態リスキル思いついたのか?運営がお前対策にあの複雑なマップを作ったって言われてるのにまたあの運営の裏をつくスポーンキルしたら泣くぞ?」

「理論上弾があって、跳弾限界を超えなきゃどのマップでもスポーンキル可能だよ」

「そんな跳弾リスキル出来るのお前だけだっての。どうやったら【首都アルディン】のスポーンキルなんて思いつくんだよ?あそこ3発10回以上跳弾させてるだろ?」

「ひたすら検証の積み重ねだよ。ある程度跳弾に慣れてくれば反射角とか分かってくるようになる。あのマップくそ広いからカスタムゲームで何度お世話になったことか」

「もうお前のスポーンキル回避するためには運営が大会用に新マップ作らないといけないだろうな……」

 ピロスケがそう言うと、チームメイトがうんうんと頷く。失礼な、人を人外呼ばわりはやめてくれ。

「まあそれは試合開始後のお楽しみとして、作戦だな。まず1ラウンド目はポンの花火で先制を取る。それである程度数を減らしたら俺とライジンがアサルトライフルで突っ込む。俺とクロノが遠距離支援。まあバクもあるから1ラウンド勝利は堅いな。2ラウンド目はガン凸で行くぞ。兵士含めて全員でな。相手もバク持ってたらきついが、3ラウンド目まで持ち込まれたらそこからは自由に行くぞ」

「作戦って言う名のごり押しだねぇ……」

「そのごり押しが通るだけのPSプレイヤースキルがこのチームにある。いつも通り、気楽にいこうや」

 ピロスケの言葉に苦笑する。公式大会の決勝だというのに気楽とは。まあ、ゲームは何事も楽しむのが大切だしな。

『試合開始まで、あと1分』

「うっし、そんじゃあいくぞ!」

「あ、開幕は耳塞いでてもらえるかい?サプつけてるんだけどねえ。」

「了解!おっしゃ二連覇勝ち取りに行くぞお前ら!」

「「「「おう!」」」」

 俺たちの身体が透け始め、ショップなどがある中立区から今回の戦場、【荒廃の区画】へと強制転移させられる。

 俺の愛銃に弾を込めていつでも突撃できるように構える

「よし、んじゃまあぶちかましますか」

『さてさてやってまいりました第二回Aims日本大会!決勝の幕開けです!』

 アナウンスと共に凄まじい大歓声が聞こえ、カウントダウンが表示される。

『FPS専門プロゲーミングチームにして数多のゲームで日本一に輝いてきた強豪チーム、紅蓮隊vsアマチュアだけどその実力はお墨付き。前回日本一に輝いた奇人連合による対戦です!!』

 開始のカウントダウンを待つ。神経を研ぎ澄ませ、鋭く狙いを定める。

『どちらも超高レベルのプレイヤー揃いですからね!試合開始が楽しみです!』

 俺、ユズハ、レイファン、ピロスケはそんなクロノの様子を見て銃器を置き、耳を塞いだ。

『ではこれより試合を開始します!Good Luck Have Fun!!』

 「……沈め」

試合開始の宣言と同時に、トリガーを引いた。

 対物ライフルにも装着可能な特殊なサプレッサーを付けているとはいえ、クロノの銃の発砲音は抑えきれず、エネルギー弾特有の鋭いブォン!という重低音が鳴り響く。

 壁を反射して反射して反射して……。

 幾度とない跳弾を繰り返し、ほんの2秒と少しで。

「撃破。後4人」

 視界の右上にプレイヤーのキルログが表示され、コッキングしながらそう告げる。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??な、なにが起きたのでしょう!?試合開始と同時に変人分隊のクロノ選手が放った弾丸が紫電戦士隊パープルウォーリアーのアッドマン選手の頭を撃ちぬいた――――!?』

 それと同時にユズハが走り出し、山なりに向けてグレネードランチャーを構える。

「クロノに続いてぶちかますよー!!」

 ポン!ポン!と小気味良い音を立てながらロケランの弾が吐き出される。

 手慣れた様子で装填と発射を続け、立て続けにキルログが二つ表示される。

『続いてグレポン丸選手のグレネードランチャーでSAINA選手も吹き飛んだ――――!?に、日本トップクラスの強豪チームに圧倒的すぎる!!』

「ああああああ!!?ユズハめぇ!SAINAは俺がやりたかったのにぃ!!」

そういいながら突撃して一人を仕留める。

「よっしゃライジンあの馬鹿どもに続けえ!」

「おう!」

 続けてレイファンとピロスケもアサルトライフルを持って走り出し、前線へと突撃した。



「マジかよおい、開始1分でもう三人かよ!あいつらマジいかれてるって」

「……無駄口叩かない、あっちの実力を知らないからこのラウンドは捨てるけど少しでも多く相手を減らしに行こう」

がガガガガガガ!

「「うっ⁉」」

「おっ!シオンじゃねえか!ここで会ったが百年目え!」

「先行って」

「お、おう!」

「あ、そうそう。シオン」

「あ?」

「うちの変態から一言。『こっちも本気で行く。勝ちたいなら本気で来い』とさ」

「……あたりまえ!」





「そろそろ敵陣か……。もうアルファとブラボーは制圧されてるから急がないと」

 串焼き団子はシオンと別れてから最高速で走り続けていた。走りながらログを確認すると、既にレイファン、ピロスケの手によってアルファとブラボーのポイントが陥落しているのを確認し、舌打ちする。

「ッ!」

 ガガガ!という音を聞いて慌てて串焼き団子は真横に飛ぶが、右腕に弾丸が当たり、はじけ飛ぶ。

「てめぇ跳ね班!」

「えっマジ?俺そんな名前で呼ばれてたの?」

 跳弾軌道設計班、略して跳ね班と呼ばれた男、軍曹Bは心外そうな表情でARを構える。

「さっすが串焼き先輩、あそこから反射で避けて被害が右腕だけとはあっぱれですね」

「おお、お褒めにあずかり光栄です…じゃねえよ!てめっ公式戦でバクとかなぁ…!」

「お、いやいや。あれはユズハの特権だし」

「まじチートまがいの命中精度しやがってどうやったらあんな精密計算出来んだよ全く…」

「んじゃ無駄話はこの辺で終わらせて、このままラウンドもいただくよっと」

 が響くと、再びARの弾丸が放たれ、それを紙一重でかわす串焼き団子。

「お前対策のためだけにAGI特化のビルドにしてんだよ!なめんな!」

「あー、忠告しとくぞ。降参するなら早めにな」

「大会で降参するわけないだろ!今日という今日こそは一泡吹かせてやる!」

 そう言って傭兵Aはライフルを構えることなく、AGI特化の性能をいかんなく発揮し、凄まじいスピードで迫りくる串焼き団子ににやりと笑う。

「ちなみに、さっき撃った弾だけどな、今狙って撃った弾じゃないんだわ」

 くるっと後ろに振り返り、無防備な姿を晒す軍曹Bにイラっとした串焼き団子は、銃剣で狙いを研ぎ澄ませ────!

「GG。次のラウンドもよろしくな」

 跳弾限界。5発10回を限界まで使い、跳ね返り続けた弾丸は、迫りくる串焼き団子の頭、胸、左腕、両足を正確に撃ち抜き、血の花を咲かせた────。






 その次のラウンドも、前のラウンドでライジンとボッサンが敵を数の暴力であっという間に勝利し、見事優勝を収めた。あまりにも酷い絵面だったので、彼らの尊厳のためにも描写はしないでおこう。

 SBOT内の大会用の特設ステージの近くに設置された休憩スペースで、味の薄いコーヒーを飲みながら表彰を待つ。

『なっ、なんという事でしょう!?あの紅蓮隊が為すすべもなく蹂躙され、対して変人分隊は一人も欠ける事なく優勝を勝ち取りました!!!え、えーっと、チートとかではない、ですよね?審議のほどお願いします』

 うーん。跳弾キルやってたら大会実況の人にチート疑われたよ。確かに慣れない人から見るとヤバい奴にしか見えないけど、一応跳弾は仕様の範囲内だし。

『あっただいま報告が入りました!チートを使用した形跡は無い、ですって……?あ、あれ人間の動きじゃなかったんですけど……』

「あー司会さん?さすがに大会でチーター呼ばわりはひどいと思うんですけど……」

『あっ、す、すみません!!』

 集中した疲れで気怠くなりながらそう言うと、司会さんが慌てて謝罪して来た。そして、司会さんが気を取り直して優勝者インタビューをするべく、リーダーであるピロスケの元へ行くのを眺めていると、一つの影がこちらに近づいてくるのが視界に入る。

「おっすシオン。GG。」

「……GG。想定内の結果で悔しい。……やっぱり傭兵は頭おかしい。うちのリーダーが手も足も出ない奴なんて日本で傭兵だけ」

 近づいてきた人物は紅蓮隊の副リーダー、シオンだった。

「そんなことを言っても俺もあいつに初めて会ったときはそれはもうボコボコにやられたんだぞ?鍛錬と研究の差だ。ほかのゲームに浮気してるやつが一点特化してるやつに勝てると思うこと自体おこがましい」

「……傭兵も色んなゲームに手を出してるでしょ。それにしても傭兵はおかしい。成長速度もそうだけど異常なまでの空間把握能力。……卒業後はうちのチームに是非」

「やっぱり勧誘か……。俺はゲームは勝つことを義務にしてやりたいんじゃなくてわいわい楽しむ主義なんだよ。……まあ、気が変わったらお願いするかもな」

 ステージの方が騒がしくなる。どうやら優勝者インタビューが終わったのだろう。

「……傭兵、表彰始まる。早く行くといい」

「シオンもな。じゃ、また明日」

「……おーう」

 俺は特設ステージの壇上にひょいっと上り、すでに並んでいた4人の元へ合流する。

「傭兵遅いぞー。シオンちゃんと何話してたんだ?」

「勧誘受けてた」

「まあやっぱ欲しがるよなーそりゃ」

「まあ今勧誘受ける気は無いけど」

「今ってことはいつかは受けるつもりで?」

「まあ気が変わればな。ほら、表彰始まるぞ」

『第二回SBOT日本大会、優勝は奇人連合に決まりました!!!皆様、盛大な拍手をお願いしますー!!!』

 ネット中継されている会場のそこかしこから、凄まじい大歓声と拍手が送られ、それに応じて手を上げる四人を真似て、手を上げる。

『今回大会から世界大会の出場権が与えられますが――――』

「あ、俺らパスで」

『ええっ!?そ、それはまたどうして!?』

「引退する奴もいるし、それに、フレンドたちと腕試しのつもりで挑んでる大会だからな。正直名誉とかはいらないんだ。世界大会は紅蓮隊に出場してもらってくれ」

『は、はあ……。わ、分かりました。では、優勝賞品をお選びください』

 司会の人がそう言うと、俺の目の前に金色のウインドウが表示された。なるほど、今回は選択式なのか。

 SBOT内で売り払えば一財産になるようなレア銃や、アタッチメント、果てはリアルの温泉旅行や海外旅行まで様々な景品が並んでいた。どれにしようかなと悩んでいると、一際異様なものが目につく。

「なんだこれ…?『グレイブ・スキル・オンライン アーツポイント50ポイント+アーツ生成権3つ』……?なんで別ゲーの報酬がこっちに?」

「おっ傭兵もそれに目がいったか。お目が高いな」

 俺に声をかけてきたのはライジンだった。お目が高いとはどういうことだ?

「このゲーム、SBOTの開発元の会社と同じ会社が近々発売する超大作MMORPGなんだよ。ベータテストはもう終わっちまったけど、繊細すぎるグラフィックとかほぼゼロタイムのサーバーへのレスポンス、果ては独自開発したAIによって制御されたモンスターエンジン諸々搭載。二、三世代は先を行く技術で開発されてる神ゲーって前情報が出ててな。この大会が終わったらこのゲームに誘おうかと思ってたんだ」

「あっ、まさか、SBOTの大会の参加に協力してくれたのは」

「ご明察。何かしら報酬あるかなって期待してたら本当にあった」

 こんにゃろ。MMORPG専門がFPSに顔を出すなんて珍しいとは思ったが、これが狙いか。

「せっかくだし、一緒にこれ選ぼうぜ?FPSばっかやってるお前でも絶対気に入るからさ」

「……まあ、SBOTも二連覇で一区切りついたし、まあやってもいいかな」

 とりあえずプレイしてみて、ハマったらそのまま続けてもいいかもしれない。ただ、あくまで本命はFPSだけどな。

 ふと他の人が何を選択したのか気になり、ユズハのほうを見る。

 

「ユズは何にするんだ?」

「え?えと、GSOのスキルポイントと生成権……」

「お前もか。てか、お前が引退するのはこのゲームに専念するからか?」

「う、うん……。軍曹君もGSOやるの?」

「レイファンに誘われたからな。そうだ、せっかくだからユズも一緒にプレイしようぜ」

「ほんと!?ぜ、絶対だからね!インするときメッセ飛ばしてね!すぐ行くから!」

「お、おう」

 すごい食いつきようだな。そんなに面白いゲームなのだろうか?……興味が湧いてきたな。

『それでは!優勝した奇人連合の皆様お疲れ様でした!!続いて、紫電戦士隊パープルウォーリアーの表彰に移ります――――』

 クロノとピロスケにも聞こうとしたが、司会の人に遮られてしまった。

 まあ、大体予想も付くし、いいか。




 こうして俺のSBOT大会は幕を閉じ、一か月後に正式サービス開始の『グレイブ・スキル・オンライン』に向けて待機することとなったのだった。

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