私の嫌いな人




 シンシンと、シンシンと

 雨が降る。雨が降る。


 傘も持たずに、

 テントの屋根がある店から、1歩前へ出る。



 濡れる携帯は明るく点灯し、


『ごめん、別れて欲しい』


 メッセージの最後の1行が痛々しい。



 赤いオシャレなワンピース。白い小さなカバン。茶髪のボブ。透明なネイル。少し低めのヒール。アクセサリーはブレスレットと、主張しすぎないピアスのみ。


 スッピンメイクも勉強した。


 全部、全部、全部、全部。


 私の趣味じゃない。



 夏が終わりに近づき、雨に当たると、全身が震えるほどに寒い。


 震えるほどに寒い。



 空を見れば、暖かな雨が頬を流れる。


 花粉症な私は、鼻をひくつかせる。



 全然、悲しくはなかった。


 全然、泣いたりはしなかった。


 全然、好きじゃなかった。



 貴方よりも素敵な人は沢山いる。


 貴方は時間を守らなかった。


 貴方はオシャレに気づかなかった。


 貴方は会話が苦手だった。


 貴方は、貴方は、貴方は、



 でも貴方よりも優しい人を私は知らない。


 貴方よりもカッコいい人を知らない。


 貴方よりも私を大事にしてくれる人を知らない。



 寒い。


 今日は本当に寒い。



『貴方のことなんて、全然好きじゃなかった』


 雨でくっつく文字を消して、消して、スマホに打ち込んだ。


 これが私から元彼に送る最後のメッセージ。



 少しでも、私の気持ちが。


 届け。届け。届け。



 口から溢れた声は、雨の音で、消える気がした。






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