第2話 机に刻まれた名前

『HATANAKA WAKANA』


移動教室でいつも座る机に刻まれた名前。


「はたなか…わかな…。」


間違いない。私の名前だ。

母音がAばかりのこの名前を見間違えるはずがない。


この落書きは私のことを指しているのだろうか。


別に珍しい名前ではない。同姓同名がいたとしてもおかしくは…

いや、学校内に同姓同名がいるほどありふれた名前でもない。


じゃあこの名前は私のこと…か…。


なんで私の名前が?

私そんな狙われるようなやばいことしたかな?


先週は無かったよね、これ。

てか誰が彫ったのよ。


特に目立つわけでもない私の名前をフルネームで知っている人なんて…この学校に何人いるだろう。


まさかクラスメイトが?

いや、うちのクラスがこの教室を使うのはこの地理の授業だけ。この席は毎回私が座ってるからクラスメイトがやったのは考えにくいか…。


じゃあ誰が?

うーん、まあでも、母音Aだらけで面白かったから落書きしてみた…だけ、かな?


うん。きっとそうに違いない。


この机の中には何回か授業プリントを忘れていったことがある。

つまり私の後にこの席を使った誰かがそのプリントを見て私の名前を知ることは簡単…!


こんな目立たない私のことを意図的に誰かが狙って名前を彫るなんて…


「ないない、ありえない。」


―――――――――――――


「畑中ぁ、なにブツブツ言ってんだ集中しろー!」


突然地理の櫻井に名前を呼ばれて我に返った。


「へゃ…!?はい!」


教室中の視線が私に集まり、変な返事をしてしまった。一瞬の静寂の後にクスクスと笑い声が広がる。


「どうしたのよ、めずらしいねぇ、わか菜が先生に目つけられるなんて。」


と、中学からの友人である菖蒲しょうぶ彩芽あやめが隣の席でニヤニヤしながら言った。


「菖蒲ー、畑中の監督しといてやれー。」


「はぁーい」


呆れたように言う櫻井先生に、彩芽は気の抜けた返事をした。

私は赤面してうつむいた。


「先生に注意される前に指摘してよぉ…。」


うなだれる私は彩芽に不満をこぼした。


「いやあ私も意識飛んでて気づかなかった!(笑)」


彩芽はあっけらかんとして言う。


「でも私が目を覚ますくらい、さっきのあんたの独り言、だいぶデカかったよ。」


「…。」


私はまた赤面した。














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