旧校舎、机に刻まれた名前は
八雲あめ
第1話 いつもの日常?
普通の女子高生、というのはつまり私のことだと思う。
日本のどこにでもいそうな平凡な顔立ち、成績は中の上、部活でも平部員。褒められることと言えば色白で細身なことくらい。子供のころから学校で目立つこともなく、浮かない程度に周りに合わせ、流れに身を任せて生きてきた。
私の名前は
「菜」だけ漢字なのは、両親が名前を決めるときに漢字にするかひらがなにするか揉めたの折衷案だったらしい。この話を聞いた時は、子供の名前ってそんな付け方するんだ、とは思った。
父は会社員、母はパートのよくある一般家庭。姉は大学進学を機に東京に出て行った。
今日もいつも通りの日常。もうすぐ昼休みが終わる。五時間目の地理の授業は移動教室。3年5組の教室を出て渡り廊下を通り、旧校舎の二階に向かう。旧校舎は古くて汚いし、エアコンが設置されていないから暑くて嫌。
教室には少し早めに行って、日の当たらない壁側の真ん中の席を取る。一番後ろだと先生に当てられるけど、このあたりの席だとあまり当てられない。しかも柱があるから、その陰でこっそりスマホをいじれたりする。
いつも通りの眠たい地理の授業が始まる。だんだん集中力が切れてきて、スマホに手を伸ばす。
『櫻井の授業今日も眠すぎてむり、暑いし。しぬ。』
新校舎で日本史の授業を受けているであろう友達にメッセージを送り、ぼーっと目の前の柱を見る。旧校舎は落書きの巣窟だ。目の前の柱や壁も例外ではない。
『ショウタ♡ミノリ』
とか、相合傘とか、恋愛系の落書きがいちばん多い。あとは、
『アヤカ・ユリ・ミカ 一生仲仔 H19.3.1』
これは時代感じるな。平成レトロってやつか。陽キャだったんだろうなあ、この人たち。
『祈・〇〇大合格 平成三年十二月』
うーん、めっちゃ昔。これ書いた人、今何してるんだろう。○○大行けたかな。
などといろいろ考えていたら、板書が随分進んでいる。
「やばっ」
つい小声でつぶやいて、急いでルーズリーフに板書を写す。
「ええと、カルスト地形…ドリーネ、ウバーレ、ポリエ…ん?」
ペン先がガタつく。これも落書きのせいだ。ただの落書きならまだいいのだが、机に彫ってあるものは厄介だ。文字を書くのに邪魔だから普通に迷惑。
「はぁ、こんなところに落書きあったっけ…。」
書きかけのルーズリーフをめくって机を確認する。
「……えっ?」
そこにはこう刻まれていた。
『HATANAKA WAKANA』
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