色見本
ポムの狼
茜色 じゃんけん
「なぜだ…… なぜ勝てないんだ……」
——高校の授業が終わった放課後
私は今週、教室の掃除当番だ。
同じクラスの掃除班で教室掃除をして、掃除の最後は班のメンバーとごみ捨てじゃんけんをするんだ。
班のメンバーは男子三人と女子三人の六人だ。
あ!私は女子だよ。
うちの班の男子はクソだ。
「ごみ捨ては俺がやっておくよ」
とかカッコよく名乗り出る奴が一人もいねぇ。
「よーーし、じゃあ平等にごみ捨てじゃんけんな」
「オッケーー」
「……」
毎日当然のようにじゃんけんするんだけど、私はほんとはいつも憂鬱だった。
なぜかって言うと、いつも勝てないから。じゃんけんでね。
でも、言えないんだ。なんか掃除班のメンバーって、ただ出席番号が近いってだけで同じ班になったメンバーだから遠慮があるんだよね。同じ中学からの人もいなかったし、仲良くもない。掃除の時以外は話さない面子なのよ。
「はい、じゃんけん、ぽん」
皆で一斉に手を出す。はい、また私の負け。
これで今週一週間、毎日私がごみ捨てだよ。
「なぜだ…… なぜ勝てないんだ……」
私が独り言を呟きながらがっくり肩を落としてるのを見て、皆クスクス笑ってた。嫌な感じだよね。でも、文句は言わないよ。だって、じゃんけんは運だし、こんだけ弱い奴が同じ班にいたら面白くもなるよね。逆の立場だったら、私も笑ってたかも。
「くっそぉ! 次は負けないからね!」
幼児向けアニメの悪役の捨て台詞みたいなのを言いながら、作り笑いをしてゴミ箱持って走るんだ。
おもしろキャラ作らないと惨めだからね。
でもね、高校の二年生になってクラス替えしたらね、私以外にもう一人最弱王が現れたんだよ。
同じクラスの男子で鈴木っていうんだ。私と苗字が一文字違い。だから掃除班が一緒になった。
「はい、じゃんけん、ぽん」
今日も私と鈴木が負け。
他のメンバーはクスクス笑っていたけど、なんでか去年のメンバーと違って嫌な笑いじゃない。
去年のメンバーは笑われると惨めな気持ちになったけど、今年のメンバーは笑われても惨めにならないんだ。なんだか笑い方があったかいんだよね。
それに、ごみ捨ても鈴木が一緒だ。いっつも、私と一緒にゴミ箱の反対側を持ってくれるんだ。だから、捨て台詞も吐かなくていいし、嫌な気持ちにもならない。むしろちょっと幸せかも。
恥ずかしかったからその時は言わなかったけど、私は鈴木のことが好きになった。
三年生になって、鈴木とクラスが別になった時に、鈴木が私に告白してくれたんだ。勿論二つ返事でオッケーしたよ。私も鈴木が好きだったからね。
「でも、心配だな。鈴木とクラスが別になったら、鈴木が毎日ひとりでごみ捨てしなきゃいけなくなるでしょ?」
鈴木は笑った。
「鈴原。お前、初手必ずパー出す癖あるから、三年では止めろよな」
色見本 ポムの狼 @kusapom
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