第25話 危機②

「な、なんだ? トラクタービームか?」


 側衛隊長が慌てて窓の外を見た。もう一人の男も驚いている。


 エマとミーナも何が起きているのか分からないようだった。


 不気味な縦揺れが続く中、に気づいた勇太が小声で俊介に話し掛ける。


「長い縦揺れ……これは。俊介はミーナさんを!」


「ああ。そっちはエマを頼む!」


 瞬時に理解した俊介が答えた直後、今まで経験したこともない激しい横揺れが一同を襲った。


「キャー!」


 エマとミーナが叫んで、その場に座り込んだ。勇太がエマの、俊介がミーナの上に覆い被さり、落下物から守る。


 側衛隊長ともう一人の男の頭上に天井が崩れ落ち、辺りは真っ暗になった。勇太と俊介の周りにも天井材が落ちてきた。


 勇太の背中にいくつか木片が落ちる。


 幸い怪我をするほどの重量物は直撃しなかったが、勇太と俊介の間に天井材や瓦礫が落ちてきて、お互いが見えなくなった。


 長い横揺れがようやくおさまると、勇太は辺りを見回した。


 真っ暗でよく見えないが、壁際にいたお陰で、勇太とエマの周りにはちょっとした空間ができているようだ。


 勇太がほこりに咳き込みながら、俊介のいる方に向かって叫ぶ。


「俊介! そっちは大丈夫?」


「ミーナも俺も大丈夫だ! 壁との間に隙間ができてる!」


 瓦礫の向こうから俊介の声が聞こえた。


「良かった! こっちも同じだよ。とりあえず助けを待とう!」


「分かった!」


 勇太は、俊介に返事をした後、エマに優しく話しかけた。


「エマ、怪我してない?」


「ありがとう。うん、大丈夫よ。勇太は怪我してない?」


「うん。平気だよ」


「良かった……ねえ、一体何が起きたの?」


「地震だよ。しかもかなり大きいやつ。まさか天井が落ちるとは思わなかったけど」


「これが地震なのね……怖い」


「大丈夫だよ。僕がエマを守る」


「ありがとう。わたし、勇太と一緒で良かった」


「僕もだよ。エマと一緒で良かった……あ、ごめん。重くなかった?」


 勇太は、エマの背中に覆い被さったままだったことを思い出し、慌てて体を離して謝った。


 エマが笑いながら答える。


「ううん、全然。勇太は華奢きゃしゃだし。何なら私よりも軽いかもよ」


「ははは、まさか」


「ふふ……ねえ勇太、さっきのようにしてくれない? わたし、勇太と離れるのが怖い」


「うん、分かった」


 勇太は、エマの背中から優しく抱きしめた。


「これでいい? 暑くない?」


「うん……」


 エマが勇太の両手に優しく触れた。


「勇太、愛してる」


「僕もだよ、エマ。愛してる」


 勇太はエマの手を優しく握った。



 † † †



 しばらくすると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。その音に混じって、外から声が聞こえてきた。


「俊介! 居たら返事してくれ!!」


 俊介の父親の声だ。


「親父! ここだ、和室にいる!! 4人とも無事だけど、天井が落ちて動けない!」


 俊介が大声で叫んだ。俊介の父親が気づいた。


「俊介!! いま助けてやるからな!」


「社長、間に合いません! 津波が来ます!」


「息子を置いて逃げられるか! ……ん? 何だあれは?!」


 俊介の父親が叫ぶと同時に、和室の壁がガタガタと音を立てた。


「また地震?!」


 エマがおびえた声で言った。勇太はエマを強く抱きしめた。


「大丈夫! きっと大丈夫だから……」


 その直後、まばゆい光が勇太とエマを照らした。上を見ると、瓦礫が空に浮かび、更に上空には、とてつもなく巨大な黒い物体が浮かんでいた。


ふねが降下してきたんだわ!」


 エマが叫んだ。


 みるみると瓦礫が空に舞い上がる。勇太の横の瓦礫が空に消えて、俊介とミーナの姿が見えた。2人とも無事だ。


 コテージの和室部分は、畳と一部の壁だけになった。側衛隊長ともう一人の男の姿はなかった。


 左肩を押さえた俊介が、ミーナに助けられながら立ち上がった。海の方を見ると、驚いた表情で言った。


「見ろよ、まるでオーロラみたいだ」


 勇太とエマが立ち上がって海の方を見た。沖にうっすらとオーロラのようなものが広がり、迫り来る津波を受け止めていた。


「何が何だか分からないけど、これでもう安心みたいだな、ミーナ」


「俊介君!」


 ミーナが俊介に抱きついた。


「イテテ……」


「あ、ごめんなさい!」


「ははは、大丈夫だよ」


 慌てて俊介から離れたミーナに優しく笑い掛けると、俊介は右腕でミーナを抱き寄せた。


「ミーナ、愛してる」


「私も。俊介……」


 俊介がミーナに優しく口づけをした。


 それを見て慌てて目をそらした勇太のすぐ目の前に、エマがいた。


「勇太……」


 エマは微笑むと目を閉じた。


「エマ……」


 勇太は、エマを優しく抱きしめると、そっと触れるように口づけをした。

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