第22話 夕食

 勇太達が今晩泊まるコテージは、大きな和室が一つと、ツインのベッドルームが一つ、後は浴室とトイレになっている。


 夕食は和室に用意されることになっていて、夜は、エマとミーナがツインのベッドルームを使い、勇太と俊介は後で和室に布団を敷いて寝る予定だ。


 エマとミーナは、風呂から上がり、ベッドルームに荷物を片付けに行った。勇太と俊介が風呂に入る。


「あれ? そう言えばビーチボールってどこに置いたっけ」


 脱衣場で裸になった俊介が、突然思い出して勇太に聞いた。


「あ、そう言えば、俊介から預かってビーチパラソルのところに置いたままだった。取ってくるよ」


 まだ水着を脱いでなかった勇太が答え、脱衣場から廊下に出た。


 勇太は、コテージの外に出ると、急ぎ足で夕暮れのビーチを歩く。


 幸い、コテージ宿泊者の専用ビーチということもあり、ビーチボールはビーチパラソルの近くに置かれたままだった。


 勇太がコテージ外の温水シャワーでビーチボールの砂を落としていると、ホテル本館の逆の方から数人の男女が歩いてきた。


 何だろうと勇太が見ていると、そのうち2人の男が勇太の方へ近づいてきた。勇太の目の前でポケットからナイフを取り出した。


「おい、エマとかいう女はどこ……な、何だ?!」


 突然、空からスポットライトのような光が男達を照らしたかと思うと、男達は空高く舞い上がった。


「わ、わあああ」


 それを見た他の男女が逃げようとしたが、同じように空から光が照らされ、空の彼方へ消えていった。


「あら、何かあったの?」


 勇太が呆気にとられていると、騒ぎに気づいた浴衣姿のミーナが縁側のガラス戸を開けて顔を出した。


「い、いま、変な人達が来たんだけど、そ、空に飛んでいって……」


「ああ、不審者ね。トラクタービームで勾引したのよ。今頃、艦隊の取調室よ」


「現行犯だし、裁判所の許可が下り次第、記憶スキャンを実施できると思うわ。首謀者が捕まるのも時間の問題ね」


 ミーナの説明に呆然としたままの勇太を見て、ミーナがニッコリ笑った。


「大丈夫、もう安心よ」



 † † †



「ごめん、お待たせ」


 勇太が風呂から上がると、すでに浴衣姿の3人が和室の座卓に揃っていた。


 座卓には、海鮮中心の豪華な夕食が並べられている。勇太が座ると、4人は食事を始めた。


「これが刺身ね……まさか海洋生物を、しかも生で食べる日が来るとはね」


 ミーナが緊張した面持ちで刺身を見つめる。


「帝都の海の生き物とは別物よ。美味しいわよ」


 ミーナの左手側に座ったエマが、箸を上手に使い、ワサビをつけた刺身を醤油につけて美味しそうに食べる。


 それを見たミーナが、フォークとナイフを使ってワサビを刺身に乗せると、醤油をつけて食べた。


「あ、美味し……っく、何このスパイス!」


 ミーナがもだえた。ミーナの向かいに座る勇太が心配そうに声をかける。


「あ、もしかしてミーナさん、ワサビ初めて?」


「ははは! まだミーナにワサビは早かったな。このワサビが刺身を引き立てるのになあ。ほら、こんな感じに」


 勇太の右手側、エマの向かいに座る俊介が、タップリとワサビをつけた刺身をミーナに見せると、これ見よがしに口に入れた。


「ん……げほっ、げほっ」


 どうやらワサビをつけ過ぎたようで、俊介が涙を流しながらむせる。それを見たエマと勇太が大笑いした。


「ああ、可笑おかしかった。そういえば、玄関に花火セットが置いてたね。後でするの?」


 ひとしきり笑った後、勇太が俊介に聞いた。冷たいお茶を飲んでようやく落ち着いた俊介が答える。


「うん、ご飯食べた後、コテージの前でやろうぜ」


「花火?」


「空にドーンって打ち上げるんだったっけ?」


 ミーナとエマがそれぞれ聞いた。勇太が答える。


「うん、火薬を使って綺麗な火花を出すものだね。今回のは手に持つコンパクトなタイプだよ」


「手に持つんだ。どんなものか楽しみ」


 エマが笑顔で喜んだ。


「火薬を扱うなんて、投擲とうてき訓練以来ね」


 ごく微量のワサビをつけた刺身を注意深く食べながら、ミーナが言った。

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