第21話 海水浴②

 4人は、しばらく海の中で水を掛け合ったり、ビーチボールで遊んだりしていたが、勇太とエマは一息入れることにした。


 勇太とエマは、海から上がると、海辺に設置されていたビーチパラソルの下で海に向かって並んで座った。


 海では、俊介とミーナがビーチボールでバレーボールのような遊びをしていた。2人とも海の中とは思えない俊敏な動きをしている。


「2人とも凄い運動神経だなあ」


「ふふ、ほんとね」


 勇太のつぶやきにエマが笑った。


「そういえば、今日は思ったより暑くないね」


 ふと勇太が空を見上げて言った。今日は猛暑と聞いていたが、海水浴にちょうどいい天気だ。日焼けもそんなにしていない。


 エマが笑顔で言う。


「軌道上の艦艇が、この地域の紫外線量や日射量を調整してくれてるの。ちょうどいいでしょ?」


「そ、そうなの?! 帝国の技術力って凄いなあ」


 思わず勇太は驚いた。改めて空を見上げたが、流石さすがに宇宙船の姿は見えなかった。


「本当は、波の高さとかも調整してくれる手筈だったんだけど、今日は穏やかだったからその調整はしてないみたいね」


 エマが沖を見ながら説明を続ける。


「波をブロックするときは、沖にうっすらオーロラのようなものが見えるはずなのよ」


「オーロラみたいなものかあ。それはそれで見てみたかったな」


「本物のオーロラなら、この前浮遊エリアで遊んだ公園からも見られるわよ。時期になったら見に来る?」


「いいの? 宇宙からオーロラが見られるなんて……ありがとう! 楽しみだなあ」


 エマの提案に勇太は喜んだ。実際に見られたら、嬉し過ぎてまた泣いてしまうかもしれない。


 エマが微笑みながら言う。


「勇太君って、ほんと宇宙が好きなのね」


「うん。未知の世界だし、ワクワクすることがいっぱいあるからね。それに綺麗だし……」


 勇太がエマを見ながら言った。エマのことを言った訳ではなかったが、何となく恥ずかしくなってしまった。


「ねえ、勇太君。もし私と一緒に帝都に来ないかって言われたらどうする?」


 エマが悪戯いたずらっぽく言った。


「もしそんな機会があるなら行ってみたいな。帝都という惑星がどんな世界なのか見てみたいし。エマさんと一緒なら喜んで行くよ」


 勇太は冗談っぽく言って笑った。エマが嬉しそうな顔をした。


 海を見ると、俊介とミーナが泳ぎの早さを競っていた。ミーナは見たことのない泳法でグングン速度を上げる。スポーツ万能の俊介のクロールと互角だ。


 エマが海を眺めながら呟く。


「日向君は、私が同じ事を言ったら何て答えてくれるかな……」


「どうだろう。エマさんを幸せにできるなら喜んで行くよ、って言うんじゃないかな。多分」


 勇太は、この前の喫茶店での俊介の言葉を思い出しながら言った。


「ふふ、そうね。日向君なら多分そう言うわね」


 エマが少し寂しげに言った。


「勝ったー!」


「いいえ、同着よ。そうですよね、エマ様」


 海から上がってきた俊介とミーナが、楽しそうに言い争いながらこちらに歩いて来た。



 † † †



 ひとしきり遊んだ後、4人はコテージに戻り、屋外に設置された温水シャワーで砂を落とした後、交替で風呂に入ることにした。


 コテージの浴室は最近増改築されたようで、新しくて広い。大きな湯船は源泉掛け流しだ。2人同時にシャワーを浴びることができる。


 勇太は、まずは皇女であるエマが一人で風呂に入るのかなと漠然と考えていたが、エマとミーナは一緒に入るようだ。2人はそれだけ仲が良いのだろう。


 勇太と俊介がコテージの玄関前で雑談しながら待っていると、コテージの中からミーナの声がした。


「ねえ、ちょっといい?」


 俊介が玄関の引き戸を開けると、廊下を少し進んで左の浴室のドアから、ミーナが頭だけ出してこっちを向いていた。


 ミーナは風呂上がりのようで、鎖骨から肩にかけて、素肌がチラリと見えた。


 俊介と勇太は、一瞬凝視した後、慌てて目をそらす。


「ねえ、これってどうやって着るの?」


 ミーナが浴室のドアから腕を出した。浴衣を手に持っている。


「ああ、それは浴衣と言って、着物と同じだよ。袖に手を通して着てから、体の前で浴衣の左右を重ねて、腰に帯を巻いて整えるんだ」


まえごろは、先に右側から合わせて、そこへ左側を重ねるんだ」


「前身頃?」


「ええっと、そっちに近づいていい?」


「いいわよ」


 俊介が玄関から上がって、浴室の前まで進んだ。視線に気をつけながら、前身頃の場所と左右を伝えた。


「なるほど、ありがとう。それじゃ着替えてみるわ。ちなみに、これは下着の上から着てもいいの?」


「あ、ああ。下着を着てから、その上に浴衣を着るんだよ」


「分かったわ。それじゃ下着も着なくちゃね」


 そう言って、ミーナは浴室のドアを閉めた。ということは、ミーナは今……勇太は思わず顔を赤らめた。


 玄関の外に戻ってきた俊介がポツリと言う。


「下着は着ないんだよ、って言った方が良かったかな」


「もしそうなったら、ちょっと刺激が強すぎるかも……」


 勇太はそう言って苦笑した。

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