第14話 お宅訪問②

 召艦めしかんと呼ばれる巨大な宇宙船の中。勇太と俊介は、黒服の女性が運転するゴルフカートのような乗り物で大きな通路を進んだ。


 通路を行き交う人々は、軍服のようなものだったり、スーツのようなものだったり、様々な服を着ていたが、地球人と見分けがつかない。


 通路の両側には、いかにも宇宙船という感じのドアが並んでいる。


 黒服の女性が通路突き当たりのドアの前で乗り物を停めた。


「こちらがエマ様のお部屋です。ドア横のボタンを押していただければ、向こうからドアを開けてくれると思います。それでは私はここで失礼いたします」


 勇太達がお礼を言うと、黒服の女性は来た道を戻って行った。


 俊介がドア横のボタンを押すと、少ししてからドアが開いた。エマとミーナだ。

 

「遠いところ来てくれてありがとう!」


「おつかれさまニャ♪」


 ドアの向こうは、日本の一般的な住宅そっくりの玄関になっていて、靴箱の上には何故か鮭を咥えた木彫りの熊と奈良の大仏の置物が置かれていた。


 そして、エマとミーナは、まさかの振袖姿だ。


 エマはピンク色に花柄の振袖。とても可愛らしい。勇太は思わず見とれてしまった。


 ミーナは赤色に金の龍の柄というド派手な振袖だ。どこで入手したんだろう。勇太は少々ビックリしてしまったが、俊介はミーナをじっと見つめていた。


 勇太と俊介は、玄関で靴を脱ぎ、室内に入った。廊下を少し歩いて左の和室に案内された。


 和室の中央には、立派な座卓が置かれ、向かい合わせに2つずつ座布団が敷かれている。


 その向こうは縁側になっていて、外はちょっとした日本庭園になっていた。その先は窓なのか映像なのか、大きな地球と宇宙空間が広がっていた。


 俊介と勇太は座卓の上座に並んで座り、俊介の向かいにエマが、勇太の向かいにミーナが座った。


「いやー、まさかエマの家が宇宙にあるとは思わなかったよ。それにしても、2人はどうして着物なの?」


 俊介が笑いながら言うと、ミーナが不思議そうに聞いてきた。


「あら、お客を家に招くときはこの服を着るんじゃないの?」


「ま、まあ、正装だしね。それに2人ともよく似合ってるし」


 俊介が笑顔で言った。勇太はコクコクとうなずいた。


 ミーナと俊介のやり取りを笑顔で聞いていたエマが、皆に提案した。


日向ひゅうが君も勇太君も、お昼まだよね? この時期に日本で食べられているという料理を私とミーナで作ってみたんだけど、どうかな?」


「お、いいねえ!」


「是非とも!」


 俊介と勇太が嬉しそうに答えた。どんな料理なんだろう。


「それじゃあ持ってくるね」


 エマとミーナが立ち上がり、部屋を出ていった。



 † † †



「おまたせ。2人の口に合うか分からないけど……」


 エマが心配そうに俊介と勇太に聞いた。座卓の上には、人数分のガラスボウルに氷水とともに入れられた素麺そうめんと、大皿に盛られた「おはぎ」が置かれている。


 ミーナの席にはフォークのようなものが置かれていたが、残り3人の席には箸と菓子楊枝が用意されていた。


「おお、まさに夏の風物詩。渋いねえ!」


「これ、エマさんとミーナさんで作ったの?」


 俊介と勇太が驚いて声を上げると、ミーナが答えた。


「軍のテキストに、日本の夏はこの2種類の料理を食べるって書いていたの。合ってるかしら」


「う、うん。合ってるよ。おはぎは、もう少し後のお盆に食べることが多いけど」


 勇太が答えた。軍のテキストは、お盆を夏一般のことと拡大解釈したのかもしれない


 エマが続いて話し始めた。


「レシピを見ながらミーナと2人で作ったんだけど、ちょっと分からないこともあって……変なところがあったら教えてね」


「了解! それじゃ、いただきまーす!」


 俊介がボウルから素麺をすくうと、めんつゆにつけて食べた。


「うまい! まさに夏って感じがするなあ」


 俊介が美味しそうに食べる。


 勇太は、おはぎを一つ小皿に移し、菓子楊枝で食べた。ほどよい甘さでビックリするほど美味しい。思わず声を上げた。


「美味しい! これ、ほんとに美味しいよ!」


 エマとミーナがお互いの顔を見て嬉しそうに笑った。


「これは麦茶かな。エマもミーナも分かってるねえ!」


 俊介がコップに手を伸ばしてゴクゴク飲むと、無言になった。


 嫌な予感がして、勇太が自分のコップを取って一口飲む。めんつゆだった。

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