第6話 エマの秘密

「どうして、エマさんが狙われるんですか?」


 勇太の疑問を聞いて、高山がエマの方を向いた。エマがうなずく。


 それを確認した高山が、真面目な顔で勇太に話し始めた。


「……あのね、星野君。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、実は、エマさんは異星人なの」


「異星人?」


 勇太が驚いて高山とエマを見る。2人とも冗談を言っている雰囲気ではなかった。


 高山が話を続けた。


「そう。異星人。エマさんのお父さんは、異星人の星間国家、『帝国』の皇帝なの。そして、エマさんは皇女で、日本の許婚いいなずけに会いに来ているのよ」


「昨日の健康診断は、勇太君が危ない人じゃないか、政府として調べさせてもらったのよ。色々黙っててゴメンね」


 それを聞いた勇太は、頭を抱えてうつむいた。高山とエマが不安げに見守る。


 勇太が顔を上げた。真剣な顔で高山に聞く。


「エマさんには許婚がいるんですか?!」


「あ、そっち?」


 高山が拍子抜けした様子で答えた。勇太が話を続ける。


「宇宙はとてつもなく広いんです。地球外文明が存在することには別に驚きません。健康診断は、まあちょっと恥ずかしかったですが……」


「でも、エマさんに日本の許婚がいるって……一体どういうことなんですか?!」


 勇太の勢いに少し戸惑いながら、高山が答えた。


「ええっと……簡単に説明すると、帝国には様々な種族がいるんだけど、皇帝の種族と人類が奇跡的に交配可能だったの」


 「交配」という言葉に、エマが顔を赤らめた。それに気づかず、高山が話を続ける。


「それで皇帝は、種族の更なる繁栄・進化を目指し、遺伝子的にそれが見込める特定の日本人を、エマさんの許婚に指名したの」


「エマさんは、その人と愛を育むために地球に来ているのよ」


「そうなのですか……」


 勇太はエマの方を向いた。エマは下を向いている。勇太もどうしていいか分からず、下を向いた。


 何となく気まずい雰囲気の中、高山が話を戻した。


「異星人との接触・交配には、当然反対も予想される。だから秘密裏に動いていたんだけど、どこからか情報が漏れたのかもしれない」


「エマさんだけじゃなく星野君も反対派に狙われる可能性が出てきたけど、改めて情報管理を徹底するから安心してね」


「僕が狙われる?」


 驚く勇太に、高山が説明し始めた。


「実はね、星野君は重体だったの」


「え?」


 勇太は慌てて自分の体を見回す。所々アザがある程度だ。勇太が高山に聞いた。


「僕は、このとおり、ほとんど怪我してないですよ。お医者さんも軽い打撲程度って言ってましたし」


「医官にはそう説明してもらったの。でも、星野君がこの病院に搬送されたときは、意識不明の重体。手の施しようがない状態だった」


「そ、そんな。じゃあ、どうして……」


「エマさんが助けてくれたのよ」


 高山が笑顔で言った。


「エマさんが?」


 勇太は聞き返した。高山がうなずく。


「そうなの。エマさんが父親である皇帝に掛け合って、帝国の高度な医療技術を提供してくれたの。そのお陰で星野君は助かったのよ」


「星野君は、帝国、異星人によって治療された人類第1号なのよ」


 それを聞いた勇太は、エマの方を向いて頭を下げた。


「エマさん、僕の命を救ってくれて本当にありがとう!」


「助けられたのは私の方よ。こちらこそ本当にありがとう」


 エマが勇太にそう言って嬉しそうに微笑んだ。


 高山が、エマと勇太の顔を交互に見ると、笑顔で言った。


「2人とも仲良しみたいね。だけど、許婚には迷惑かけちゃだめよ。国際問題どころか星間問題になっちゃうからね。それじゃ、またね」


 高山は病室を出て行った。



 † † †



 病室には勇太とエマの2人が残された。再び気まずい雰囲気になる。勇太がエマに声を掛けた。


「エマさん、許婚がいたんだね……あの、なんかゴメン……」


「ううん、そんなことないよ。私、嬉しかったよ。こちらこそ、危険な目に遭わせてゴメン」


 エマが慌てた様子で勇太に謝ると、少し躊躇ためらいがちに話を続けた。


「あの……もし良かったら、今度また一緒に会うことって出来るかな?」


「え、いいの? 許婚の関係は大丈夫?」


 勇太が心配そうにエマに聞くと、エマが笑いながら答えた。


「許婚なんて、お父様が勝手に決めただけで、まだ誰かも知らないのよ。来週には顔合わせするみたいだけど……勇太君ならいいのにな」

 

「え?」


 勇太が驚いて聞き直した。エマは、思わずつぶやいてしまったことに気づき、頬を赤らめた。


「……あ、ゴメン、なんでもないわ。今度また遊ぼうね!」


「う、うん! それじゃまた今度!」


 勇太は、ドキドキしながら、エマに笑顔で頷いた。

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