ひかりのない意思疎通

――あー、あー。はじめましてー。

  こちら……えぇと……ぼくには名前も

  番号もありませーん。どーぞー。


初めまして。もし宜しければ、

  これから貴方にあだ名を

  付けさせて頂いても?


――えー、いいのー、いいのお。ありがとう。


では天河石アマゾナイトさん、

  よろしくお願いします。


――やったあ、やったあ。よろしくね。



今日は何をしていたのですか。


――今日はねぇ、真っ暗な中でずうっと

  おひるねしながら過ごしていたよ。


  でもねぇ、真っ暗だからねぇ、

  あさだか ひるだか よるだかね、

  わかんないの。


真っ暗で、どのような感じでしたか。


――うーん、真っ暗でね、真っ暗でねえ。

  走るとね、カンカンって音がするんだ。

  それがとってもうるさいの。

  鉄のにおいがするよ。


貴方は昔、真っ暗の中にいなかった頃、

  どこに棲んでいたのですか。


――うーん、暗いけど、かえるもちょうちょも

  かたつむりも、よく遊びに来てくれたよ。

  たのしかったなあ。


今は楽しくありませんか。


――真っ暗に閉じ込められて、

  楽しい石っころはあんまりいないよ。


どういうことですか。

  石は土の中にいるものなので、

  暗い場所は好きではないのですか。


――宝物だって、ねぇ。大事そうに

  箱の中に詰めておくほうが可笑おかしいよ。


……そろそろ、通信を終了します。

  ありがとうございました。


――今度日の目を見るときは、

  ぼくのこと ネックレスにでもしてよね。



♢◊ ◈ * ·


宝物を大切にすべく

  ひかりのあたらぬところに置けば

 ただそれが独善とも知らず


  その彩りを 亡くすとすれば

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