第2話 ベトナムコーヒーはプリンと同値

 ベトナムコーヒーは苦くて甘い。


 ベトナムに来るまでは、この両立し得ない噂を聞いたことがあり、理系の私にはどうも受け入れがたかった。だが、今の私は納得できるようになった。

 実際にベトナムコーヒーは苦くて甘いのである。


 ベトナムにはカフェが溢れかえっている。日常的にコーヒーを飲む文化があり、世界第2位の生産量を誇る。カフェでブラックコーヒーを頼むと、めちゃくちゃ苦いコーヒーが出てくる。そもそも苦い豆の品種であるロブスタが使われているそうだ。これだけで飲むとめちゃくちゃ苦くて渋い。まるでウイスキーのストレートを飲むときのように、チビチビと舐めながら飲むか、ストローでかき回しながら氷を溶かしてしか飲めないレベルである。


 そんなコーヒーに、甘ったるい練乳を入れて飲むのがベトナム流である。入れる練乳の量がまたすごく、あんなに苦かったコーヒーが、甘ったるくて逆にチビチビとしか飲めなくなるのだから、それはもう相当な量である。


 こういうロジックで、苦くて甘いという二律背反ベトナムコーヒーが存在しているのである。


 私は典型的な日本人で、コンビニコーヒーが一番好きである。砂糖やミルクも普段使わずブラックで飲むことに、ある種のプライドを持って生きてきたクチである。ベトナムに移住する日本人で、日常のコーヒーをどうするか頭を悩ませたのはきっと私だけではないはず。


 移住して2年経った今、現状の最適解は甘いコーヒーに慣れることである。程よい苦さのコーヒーを探すことももうせず、自分のコーヒーへの微々たるプライドを捨て、郷に入ったのだから郷に従うことにした。今ではもう抵抗もなくコーヒーとして受け入れることができるようになった。


 私はそんな二律背反コーヒーを飲みながらふと、プリンを思い出した。黄色の甘い部分に苦いカラメルを持ち合わせる、二律背反スイーツの代表である。プリンを食べるときには甘くて苦いことになんの疑問を持たなかった。

 きっとベトナムコーヒーも、そういうスイーツとして受け入れていくべきなのだろう。

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