第2話 後悔
銃声が鳴り響く。
「くっ。油断した」
真緒の機体は損傷する。バチバチとスパークを爆ぜる音。
「あとは任せた」
短距離通信回線が開き真緒は弱々しく呟く。
ウルフは銃撃を放つ。
機械音。回避行動に移る。
アクチエーターの動く音。
ショックアブソーバーがしなる音。
壁を蹴って、ウルフの背後に回る。
その背中に剣を突き立てる。
バリバリとウルフの機体が切り取られていく。
ウルフが背後に向けて銃弾を放つ。メインカメラが正面向いたまま。
第二動力炉が弾ける音。
オートパージされた第二動力炉が爆炎に変わる。
機体が前方に倒れ込む。
きしむ音。
「隙あり」
真緒が小さく呟く。動けなくなった真緒は砲台がわりに銃撃を放つ。
発射された弾丸はウルフのコクピットを穿つ。
ウルフの機体が壊れ、きしみ、爆炎に変わる。
「やったっ!?」
嬉しそうにはしゃぐ真緒。
機体が倒れた。こちらの勝ちだ。
あとはこの基地を爆破すれば。
《バトル終了》
《ウルフズの勝利》
淡々と告げる音声ガイド。
こちらの前戦基地が壊滅したらしい。
敵の斥候隊が侵入したようだ。
「あーあ。負けちゃった」
寂しそうにする真緒。
後悔したらしく、しおらしい。
「うーん。また戦おうか……。リベンジだよ!」
怒りをパワーにして真緒は再び再戦を望む。
モニターに表示された《再戦》の文字をタップする。
「ようし。今度は負けないよ」
意気込み充分な真緒。
機体が起動する。
メインカメラが起動し、操縦桿を押す。機体が前方へと進み出す。
ぎゅい。操縦桿をさらに倒す。
ぴぴぴ。
機体前方に大量の機光兵器ラピスが見える。
ウルフズの総戦力らしい。
「どうやら、こっちの作戦を読まれているみたい」
額の脂汗を拭く真緒。
意地の悪い笑みを浮かべる。
機体をカタパルトにセッティングする。
がきん。カタパルトに設置される音。
電磁カタパルトの電源が起動する音。
《真緒。発射シークエンスに入ります》
《3、2》
淡々と告げる音声ガイド。
《1》
発射シークエンスの電子音がなる。
《真緒。発進どうぞ》
「真緒。ラピスいくよ」
高らかに口上を述べると、機体が一気に加速する。
風切り音。
空母から発進されたラピスは上空を飛翔し、飛行機に乗り移る。
飛翔能力に乏しいラプスは飛行機で滑空することができる。
「さ。狩るわよ」
真緒は悔しそうに呟く。
飛行機に乗ったまま、サブマシンガンを放つ。
先ほどのラピスとは違う。
今度は装備を換装しており、長距離ライフルを装備している。
先ほど整備兵が言っていた。
「いっけー」
真緒は銃弾の雨を放ち、前戦を推し進める。
ラピスの携行武器サブマシンガン以外にも肩口に装備された無反動砲が、ボンと大きな銃声をならす。
「オラオラ! やってやんよ! 雑魚ども」
真緒は口汚く罵る。
敵機の装甲が砕ける音。
間接部が壊れ、きしむ音。
機体を前方に流し、戦線を塗り替えていく。
コクピット内の電子音が鳴り響く。
敵機が後退していく。
複数のラピスの音。
真緒の乗る飛行機が敵機の狙撃を受けて足を失う。
飛行機が爆炎に包まれる。
真緒は飛行機から離脱し、着地を試みる。
背中に設置されたバラシュートで降下を開始する。風切り音。
飛行機が爆発する。
「イワン。ジェシカ!」
飛行機を操縦していた仲間の名を叫ぶ真緒。
『私たちの分まで頑張って』
ジェシカが共用語で励ます。
これはゲームだ。
撃ち落とされた者でも、通信回線は常時開いている。声が聞こえる。
「わかった。頑張る」
気を引き締めた真緒。
後方から友軍の長射程ビーム砲が発射される。ビーム音。
ぶぅぅぅうん。戦場の音が鳴り響く。
「いっけー。アジャマ」
ミサイルを放つ真緒。発射音。
チャフが巻かれる。
誤認したミサイルが空中で爆破される。
爆炎の中から子弾が放たれる。
真緒が発射したのはただのミサイルじゃない。
「これぞ。多弾頭追尾ミサイルよ! 空中で爆破された方が被害が大きい」
ミサイルの中に詰まった子弾が地上に降り注ぐ。
装甲を撃ち抜く音、多数。
「ほらほら、今だよ」
味方のビーム砲を撃つよう促す真緒。
『あんたに言われる筋合いはないわ』
僚機からの通信が入る。
長距離ビーム砲が発射される。
ウルフズの前戦ががた落ちだ。
先ほどよりも真緒たちは守りながらも前戦を進めることはしない。
「これは消耗戦になりそうだね」
真緒は距離をとりつつ戦う。
先ほどの戦術があるウルフズとはこれがいい。
敵の斥候隊はまだ見えない。
新しい戦術でも考えているのだろうか。
「おかしい。なんで敵機がこない」
真緒は警戒心を強めた声を上げる。
敵機は及び腰だ。
ばん。信号弾が放たれる。
戦線から離脱していく、敵機。複数機が後退する音。
「くっ。ここから離れる訳にもいかない」
こちらが戦線を押し上げるのを予想し、斥候隊を待機させている可能性がある。
さらに撤退する敵機に長距離ビーム砲が放たれる。
溶断されていく敵機。
機体が警告音を鳴らす。
「前方から複数のミサイル!?」
真緒は対空バルカンを発射する。
『撃ち落とせ――っ!!』
空を滑空するミサイルを僚機を含め、撃ち落としていく。バルカンの発射する音。
ミサイルが撃ち落とされ、空中で爆破されていく。
味方の基地にミサイルの一部が着弾。破裂音。
ばきん。コンクリート建物が砕けた音。
どこ。砕けた破片が地面に落下する音。
『のわ――――っ』
『くそっ。ウルフズめ!』
仲間から聞こえてくる悲鳴や、恨み言。
真緒はラピスのエンジンを噴かす。
「わたしが前戦を押し上げる。敵のミサイルポッドをたたき落とす」
『そんな無茶よ』
『そうですよ、姉貴!』
引き留める僚機の声を無視し、バーニア出力を最大にする。
加速したラピスが真緒にGを与える。加速音。
追撃をし、バルカンとサブマシンガンの銃声が鳴り響く。
敵機を次々となぎ払う。砕ける音。きしむ音。爆発する音。崩れ落ちる音。
ラピスが地上を走る音。
前戦がどんどん推し進められていく。
敵前戦基地が確認できると、ミサイルポッドから超高速ミサイルを放つ。発射音。
ミサイルが風切り音を放ち、飛翔する。
シールドを手にした敵機が立ちはだかる。
ミサイルはチャフとバルカンと、そしてシールドの三重の盾によって阻まれる。爆破音。
駆動音が鳴り響く。
ダウンフォーススタビライザーが展開され、真緒の機体が加速する。
14Gもの負荷が身体にのしかかる。
ざざ。
完全没入型人工視界にノイズが走る。
VRMMOとしてはあり得ない不具合。
真緒は気にした様子もなく、サブマシンガンを撃ち放つ。
この戦いに勝てば、大量の賞金が手に入る。そう勇む真緒。
プロのゲーマーとして活躍する真緒だからの発言である。
「このっ。いい加減やられろ!」
弾丸を撃ち尽くしたサブマシンガンを捨てる真緒。
がらん。サブマシンガンが地面に落ちる音。
加速した状態のラピスが実体剣を引き抜き、構える。抜刀する音。
きらん。実体剣が煌めく音。
「さ。やるよっ!」
『『『おうっ』』』
僚機が声を荒げる。
ウルフズのリーダー格であるウルフはいない。
「どこだ?」
真緒が周囲に目をくべらせていると、僚機から悲鳴が上がる。
僚機が次々と撃ち落とされていく。
「何!? まさか……!」
不安を口にする前に、真緒は後退を開始する。
「こっちの作戦を真似された!?」
ウルフは単機で突破口を切り開こうとしている。
つまりはウルフ一人による特攻だ。
それは奇しくも先ほど真緒たちがとった戦術だ。
まさか、こんな簡単にも真似されるとは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます