付き合ってても片思い

我孫子発

付き合ってても片思い

「つ、つ、付き合ってください!!」


告白したのは私の方からだった

1年間、ずっと好きで好きで、帰り道にある港の公園にきてもらい、潮風に負けないくらいの大声で思いをぶちまけた。

「お、おう」

低い声で返事をいただき付き合うことになった


彼は成績は上の方、背が高く、少し彫りが深くていつも無表情。ぶっきらぼうだけど困ってる人はほっとけ無い、誰にでも優しい人


付き合ってからは2人で帰るようになった

彼は口数こそ少ないけど、私の話に相槌を打ちながらきいてくれて、私の分からないことは何でも教えてくれた。


学校帰り、港の公園で彼に「同じ大学に行く!」と宣言した時は珍しく目を丸くして驚いていたけど、次の日の学校に何冊か参考書を持ってきてくれた。

学校の図書館や喫茶店、たまにお互いの家で一緒に勉強した。私が「もうダメ!覚えきれないよ!」と弱音を吐くと何も言わず、暖かいカフェオレを入れてくれた。

私は彼とずっと一緒にいたくて、必死で食らいついた


合格発表の日

彼の家のパソコンから確認した。

彼の番号があった

彼の合格はわかっていたけど素直に嬉しかった

違う学部の欄に私の番号もあった

『あ、私も受かってたんだ…』


彼は机を拳でガンと叩き、「ちくしょう…」とつぶやき肩を震わせた

『ゴメン、ほんとにゴメンね…』

こんなに感情を表に出してる所をみたことがなかった。届かないと分かっていてもポロポロ泣いて彼に謝まるしかなかった


月日が流れ何度目かの冬が来た頃、彼が久々に私のいる故郷に帰ってきた 


バス停に降りた彼はバレンタインに私があげた手編みの下手くそマフラーを巻いていた。まだ持っていたなんて、出来ることなら作り直すのにな。

バス停を降りた彼は家とは違う方向に歩き始めた。彼に速度を合わせて後をついていく。


2人で一緒に勉強した喫茶店

『あ、クリスマスの飾り付けしてるね。ツリーは夜になると、ピカピカ光るんだよ』

彼は立ち寄ることなく歩く


通った高校 

『きれいになったでしょ。壁の色を塗り替えただけなんだけどね。』

校舎の方を少しだけ見て、通り過ぎる


私が彼に告白した港の公園

潮風が彼のマフラーをはためかせる。

遊具は潮風で傷んで黄色いテープが張り巡らされている。彼はベンチに腰掛け、ポケットからタバコを取り出したが、ハッとしてタバコをケースに戻した


私が喘息持ちなの、覚えててくれたのかな

ふふ、もう気にしなくて良いのに…


港の向こうに広がる灰色の海を見ていた。

遠くの船の汽笛が風に乗ってきこえる

相変わらず無表情、彼が考えている事は分からない

少し寒いのか、下手くそマフラーの下の鼻は少し赤くなってる


なんだか、彼の無表情に拍車がかかってるように見える


ねぇ、気づいてた?あなたの事を気になってる女の子、何人もいたんだよ?

どうして、あなたの隣には誰もいないの?



ねえお願い

私の事、早く忘れてよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

付き合ってても片思い 我孫子発 @tiisaki-sumire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ