第2話 継がれる血

第2章 輝きの時代と揺らぎ


根源より出でし七つの理が世界を織りなし、星は満ち足りた。

この時代こそ、偽りなき真の楽園であり、後に失われし調和の原型であった。


されど、光の中に生じた微かなる「歪み」が、その輝きをかげらせたのだ。



第3章 根源の恩寵おんちょう

七つの理によって完璧な世界となったアル・エテルナは、根源の恩寵に包まれた。争いはなく、光と影は均衡を保ち、すべての生命が調和の中で生きていた。


この理想郷は「輝きの時代」と呼ばれた。



僕の故郷、アル・エテルナは、一人の王によって統一されていた。


その名はライアス王。


彼は力と知恵によって、この平和な世界を築き上げた、革新的な王だ。


彼の統治は完璧に見えた。


しかし、彼が平和を維持するために払った代償は、僕のような境界の民ですら感じ取れるほどだった。


ある日、僕は書庫の影で、物音ひとつ立てずにライアス王と息子のアゼルの会話を盗み聞きしていた。


アゼルは僕と同じく、まだ若かった。


だが、その瞳の奥には、父であるライアス王にも似た、強い意志の光が宿っていた。


「アゼル、よくぞ参った」


玉座に座るライアス王の声は、書庫の厳かな空気に響き渡った。


「父上、何か御用でしょうか」


アゼルは礼儀正しく、しかし臆することなく問い返す。


「うむ。お前に話しておかねばならぬことがある。このアル・エテルナの平和は、もはや武力だけでは保てぬ」


ライアス王は、玉座からゆっくりと立ち上がり、窓の外の景色を静かに見つめた。


「新たな時代を築くためには、血縁の繋がりが不可欠となる。そこでだ、お前に隣国の王女との婚約を命じる」


アゼルの表情が、一瞬で凍りついた。


「婚約……ですか? なぜ私なのですか」


「決まっているだろう。次期王となるお前が、この世界の均衡を保つための礎となるのだ」


ライアス王の言葉には一切の迷いがなかった。


それはまるで、アゼル自身の意思など最初から存在しないかのように、絶対的な命令だった。


アゼルは唇を固く結び、何かを言いたそうにしていたが、結局、何も口にしなかった。


「その王女は、隣国の若き当主だ。まだ幼いが、その知恵と器量は既に民の間でも高く評価されている。お前とは良い夫婦となるだろう」


ライアス王の言葉は続く。


アゼルはただ静かに、その言葉を聞いていた。


彼の心の中で何が渦巻いているのか、僕には分からなかった。


だが、その固く握られた拳だけが、彼の内に秘めた葛藤を物語っていた。


この時、僕は初めて、ライアス王の統治の「歪み」の片鱗を見た気がした。


そして、この命令が、やがて来るべき悲劇の序曲となることを、その時の僕は知る由もなかった。

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