第2話
「……そうか、無事で何よりだ。」
「うん、助けに来てくれてありがとう。」
角を曲がれば職員室というとこで
時雨先生とあさきの会話が聞こえてきた。
私はなんとなく入る隙が見いだせずそのまま聞き耳を立てる。
「当たり前だろ、さすがにお前一人で女子生徒を運ばせる訳にはいかねぇしな。」
「うん、でも本当に大丈夫かな。」
「本人が問題ないって言ってるなら大丈夫だろうが……ちょいと面倒なことになってるみたいだ。」
「何かあったの?」
「森に何体もの魔喰(まじき)が出現してるって報告があった。ヌヴリエで殲滅させてるそうだからじきにおさまるとは思う。」
魔喰?
頭の奥がまたチリチリする。
『魔喰による魔力不足です。魔法石で対応できるか……。』
『妹は助かるんですか?』
脳裏であさきと幼いお姉が話している
ううん、似てるけどこの声はあさきじゃない
じゃあ……誰?
その時後ろからポンと肩を叩かれ我に返る。
「どうしたんだい?そんな所で……もしや職員室に用事かな?」
「え……あ……。」
後ろを向くと苺色のショートヘアで眼鏡をかけた二十代くらいの女性が立っていた。
「何やら顔色が悪そうだが保健室でも行くかい?」
「い……いえ、大丈夫です。」
するとその声を聞きつけてか
「日晴さん。もう歩いて大丈夫なんですか?」
「いきなり倒れたって聞いてびっくりしたぜ。田中先生と一緒だったんだな。」
あさきと時雨先生が来た。
「いや、彼女とはここで会ったのだよ。日晴、ふむ。君が来週転入してくる藤代 日晴君だね。先生はここで英語の教師をしている田中 花子だよ。」
こんな日本のメジャーな苗字と名前を掛け合わせた人っているんだ。
「よろしくお願いします。」
「それでどうかしたか?」
「あっ、寮の部屋がどこなのか聞いてなかったので。」
「悪い、鍵を渡すの忘れてたわ。」
そして時雨先生から鍵を受け取り
「ならば寮の案内は先生がやろうではないか。」
「えっ?田中先生、いいんですか?」
「任せたまえよ。どうせ今から暇だ。」
そしてあさき達と別れて私は田中先生について行った。
「ここが女子寮だ。数年前リニューアルされて可愛さも使い勝手も良くなった。たまに先生もお邪魔するのだがオススメは屋上だね。庭園があって読書をするのにピッタリなのだよ。」
「ここは浴場だね。入れる時間は夜の九時半までだから気をつけたまえ。お風呂の温度は若干ぬるめの気がするが日晴君は何度くらいが好みだい?」
「朝食や夕食はこちらの食堂で頂くのだよ。曜日ごとに洋食、和食、中華など実にレパートリーに富んでいてね。どれも美味だよ。オススメはハンバーグだね。」
怒涛の田中先生の寮案内は終わり……。
「はあ〜……。」
夕食前の六時をまわったところで
私はようやく部屋で横になれた。
でもゆっくりしてる暇はない。
とりあえず報告のためお姉に電話する。
『随分遅かったわね、何かあったの?』
「うん、実は……。」
私はとりあえずあの森のことを話した。
『そう……今は何ともないのね。』
「うん……そういえば時雨先生とあさきが話してたの……森で魔喰が発生とか。」
『まさかあなた行ったんじゃないでしょうね!』
「い……行ってないよ!」
いきなりお姉の大声が聞こえてびっくりする。
『やっぱり中止、中止にしましょうこの任務。』
「えっ!私何もしてないよ!」
『えぇ、あなたは悪くない。悪くないけど……。』
段々とお姉の声が小さくなってため息をつく。
『ごめんなさい、本当はこれ、任務でもなんでもないのよ。』
「えっ!?」
『あまりにもあなたが外に出れないことを不憫に思った刃黒様とお兄ちゃんがやったこと。だからあなたは戻ってきていいのよ。』
そ……そんなことにこんな大掛かりなことやってたの?
「ありがとう、お姉。でもせっかく外に出れたんだもん。もう少しここにいたいよ。」
『けど……。裏世と関わりがあるのは変わらないのよ。』
「森には近づかないようにするから。」
『……分かったわ。無理はしないでね。』
「うん。」
そして電話が切れる。
私はカバンからタロットカードを出してシャッフルし机の上に並べていく……。
「鬼門の方角は……やっぱりこれなのね。」
丑寅を示すカードを裏返すと
Forest
森を表していた。
時期は十月
私は時期外れの転入生ということでか……。
何だか周りから距離を置かれている気がしてならない……。
まあ仲良くなろうとまでは思わないけど……。
色々めんどくさいし
調べたいこともある。
一応任務自体はもう有耶無耶になったから私自身はこのまま学校生活を謳歌しておけばいいわけだけど
裏世の情報が流れているのは変わらないのよね。
この学校、誰がなんの目的で建てたのか。
誰にも話しかけず調べられるとしたら
転入して次の日
放課後
私はホームルームが終わるとそのまま図書室へと足を運ぶ。
文庫本や勉強に役立ちそうな資料本
辞書が並ぶ本棚を凝視するがなかなか見つからない
「何かお探しですか?」
後ろから声がしてびっくりして振り返る。
「おや、驚かせてしまったならすみませんでした。」
そう言いながらもニコニコ笑っている黒縁メガネの男性がいた。
「えっと……司書の先生ですか?」
「いえ、僕は国語を担当している東雲 連理(しののめ れんり)といいます。えっと君は……一年生ですか?」
「一年A組の藤代 日晴です。」
「あぁ、転入生の……苗字と名前に相互関連があり実に良い名です。」
相互関連?
日を受けて花が咲くみたいな?
「それで何かお探しですか?力になれるといいのですが。」
「その……まだ転入してきたばかりでこの学校のこととか知らなくて歴史とかが分かる本があればなぁと。」
「なるほど、手軽なネットよりも本で調べるほうが好きなのですか?」
「まあ、そんなとこです。」
そうか、確かに年表とかならホームページで調べればいいのか。
スマホもこの任務のために買ってもらったけど使い方があまり分からない。
「それでしたら、あちらに地下の書庫へ行く階段があります。古い資料などはそちらにあって卒業生のアルバムなどもあるはずですからレスト学院の歴史についても何か載っている本があるかもしれませんね。」
「ありがとうございます。」
そして東雲先生に指し示された階段へと歩く。
過去の資料とかも普通に生徒が閲覧できるのね。
けどさすがにこんなとこに生徒なんて
「……いた。」
まさかの生徒が私以外にもう一人。
「あれ?何か調べ物ですか?」
本を開いているあさきがいた。
「あさき、こんなところで何してるの?」
「えっと……ちょっと卒業アルバムを……。」
「卒業アルバム?誰の?」
「その……お母さんの。」
あさきがそう言って本を指さす。
写真にはお下げ髪をした一人の女子生徒が写っていた。
「あさきのお母さん、ここの卒業生だったのね……でもなんでまたお母さんの卒業アルバムを?」
「いや、卒業生のアルバムも図書館に置いてあるって聞いたからちょっと見てみたくなって。」
「家に置いてないの?」
「どうでしょう……あるのかな。」
そう言ってあさきはお母さんの写真を優しく撫でる。
その仕草はまるで……。
「えっと……もしかしてお母さんって。」
「僕が小学校に上がる前に亡くなってるんです。お父さんも。実家もそれ以来帰ってなくて。親戚もいないから今はお父さんの上司の家にお世話になってます。」
「…………。」
いきなりのあさきの告白に言葉が出ない。
あさきは卒業アルバムを閉じる。
「日晴さんはどうしてここに?何か調べ物なら手伝いますよ。」
あさきはいつもと変わらず穏やかな口調でそう言った。
そうなるとどうにか合わせるしかなく
「ちょっとレスト学院の歴史についてね……。」
「レスト学院の歴史かぁ。確か戦後にできたらしいけど僕も詳しくはわからないかも。えっと……第一回卒業生のアルバムとかあるかな……。」
あさきはアルバムをしまいながら言う。
私は適当に近くの本棚を見る。
昔の新聞や地図などの大判の資料が並んでいる。
さすがにこの辺にはなさそうかな。
「日晴さん、一期生の卒業アルバムを見つけました。見ますか?」
「え?あぁ、ありがとう。」
私はアルバムを広げてくれたあさきの隣に座る。
「わぁ、制服がやっぱり今とちがうや。でも校舎の形とかは変わってないなぁ。あっ、見取り図もある。」
見取り図には校舎だけではなく講堂、学生寮や教師寮といった建物までも載っている。
その教師寮の最上階に示された文字。
「えっ……?」
かすかに魔力を帯びている。
これ、裏世の人にしか読めない仕様だ。
そこに書かれた文字を
「裏世管理対策本部……。」
あさきは読み上げた。
「あさき、この文字読めるの?」
「えっ?だって他の字と変わらず書いてあるし……これ、何をするとこでしょうか。えっ!?日晴さん!?」
私はそばにあったあさきの手を握り魔力測定を行う。
「あ……。」
こんなに近くにいたのに気づかなかった。
触れてやっと
あさきの中にある多量の魔力を感じる。
当たり前だけど私よりももっと強い。
けどここまでしないと感知できないほどの魔力を抑えてるなんて
途端頭がクラっとして慌ててあさきから手を離した。
危なかった
このままあさきの手を握ってたら魔力に当てられてまた倒れるとこだった。
「あさき……アンタ何者?」
「何を……。」
「アンタも裏世のことを知ってる人なんでしょ。ここに書いてある文字も裏世の人にしか見えない仕様になってたし、魔力も感じられるし、それに……昨日の職員室での時雨先生との会話。あれは一体どういうこと?」
あさきは一気にまくし立てた私の言葉に驚いたような顔をし、そして困ったような顔をした。
「ごめんなさい、俺からは何も言えない。」
「えっ?」
あさきはいきなり立ち上がって部屋から出ていった。
「えっ!?ちょっと待って!」
私も慌てて追いかけるけど……。
「……見失った。」
図書館の中は本棚が高いのもあり人を見つけるのに苦労する。
「仕方ない。」
一つの手がかりとして教師寮の最上階。
裏世管理対策本部を示しているとこに行ってみるか。
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