本当は全部欲しい

白川津 中々

◾️

 いつからだろうか、欲望を諦めるようになったのは。


 いいものを食いたい、女を抱きたい、車が欲しい、時計を買いたい。

 若い頃あれだけ焦がれていた、何かを欲する気持ちを、ずっと押し込めてしまっている。


 どうせ手に入らないからとその日の食事ばかりに執着するようになってどれだけ経つか。一日に使う金を減らせば翌年には大きな金額を動かす事もできるだろうが、そんな気持ちがもうない。何が欲しい、何をしたいという欲望は鳴りをひそめ、一時的な陶酔に流されるまま、脂肪だけを厚くしていくのだ。


 大きな欲望は希望だ。身の丈に合わない物を得るために人は努力と我慢を覚えていく。私もかつてはそうだった。だが、もう疲れてしまって、何かを得るための力を出せないのだ。こうなるともはや、動物と変わらない。生きるためだけに生きる畜生。私は豚や牛と同じように貪っては働き、死んでいくしかない。


 そんな人生でも、今日を、明日を生きたいと願ってしまう。私はなんのために生きるかも分からないままに、日々の安い食事と酒を求めるだけの人生に、執着している。


 死んだ方が潔いかもしれない。それでも私は、生きていたい。何もかも諦めてしまった一生を、一人で。


 もうじき冬がくる。

 今年も終わりが見えてきた。

 歳をまた、重ねる。

 何も得ないまま、何もないままに。


 私は、生きていたい。

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