ホツマツタエ 消えたヒミコと最後の祭り
西瓜すいか (Hisshigumi Pr
第1話 ヤマタイのクニ
このクニの歴史を、残すんだ。
たとえ、おれが消えてしまうとしても。
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ここはヒミコさまの治める国、ヤマタイ。
小さい国だけど、あちこちの王がヒミコさまに会いにやってくる。
おれはこの国で生まれたシギ。ヒミコさまの館の下働きをしている。荷運びや記録の手伝いなんかが、おれの仕事だ。
この国には大人の男はほとんどいない。ほとんどが、女と子供だけのクニだ。
5つまでは、幼子として男女別け隔てなく育てられる。けれど、5つを超えると「メノコジ」と「オノコジ」と呼ばれる男女別の集落で別々の教育を受ける。
女は「メノコジ」に住み、教育係から教育を受ける。10をすぎるとこのクニの正式な民となり、クニの仕事の見習いをする。
男は「オノコジ」に集められ、裏方仕事を仕込まれる。男は目立つ仕事はできない決まりだ。
このクニの女王であるヒミコさまは未来を占い、神託を告げる「姫巫女」という仕事をしている。
〈ヤマタイのヒメミコ〉というのが女王さまの正しい呼び名らしいけど、このクニのひとたちは皆、ヒミコさま、と呼んでいる。
この「姫巫女」という仕事は、代々継がれてきたもの。女の子たちの中でまじないのチカラが強い者がなるらしい。
男にはまじないのチカラはないから、女を支えるための下働きをする決まりだ。
男であるおれは、15までの間にクニを出るか、このクニで女を支える柱として生きるかを決めなければならない。
おれは15まであと2年。今のところ、このクニに残ろうと思っている。
なにせこのクニでは暮らしに困ることはない。山に行けば木の実が採れるし、川には魚がいる。畑ではいろんな作物を育ててるし、他国の王がヒミコさまにお告げをもらいに来るたびにでっかい干し肉や珍しい果物を持ってきてくれる。
今日は、他国の王が来る日だ。
こういう日は忙しいけど、ちょっとワクワクする。滅多に食べられない海の魚や果物にありつけるかもしれないからな。
「シギ、食いしん坊の顔してる」
すぐ近くから、ヒサメがからかうように声をかけてきた。
ヒサメは、5つまで一緒に育った、おれの幼馴染の女の子だ。
「してねえよ」
「いや、してる。“今日は絶対なんか旨いもん食べるぞ”って顔」
わざと口をパクパクさせて見せるヒサメに、おれは吹き出しそうになる。
「おまえな……王様の前でその顔するなよ」
「しないわよ。ねー。フウ。」
「その顔されたら、笑っちゃいそうだよ」
ヒサメの友達、フウがクスクスと笑いながら言う。
そしてふたりは、女の子っぽい話に花を咲かせ始める。
「今日の王、どんな服かな」
「分かんないけど、けっこう豊かなクニの人が来るって言ってた。」
「色のある服着てくるかな?ああいう服、一度でいいから着てみたい」
ヒサメがため息まじりにぼやく。おれは、ヒサメとちがってオシャレなんて興味ないけど、他国の衣装は見ていて面白い。
毛皮をかぶったままの人、真っ白な絹をまとった人、腰に刺繍入りの布を巻いて上半身は裸みたいな人――国ごとにまるで違う。女を連れてくる王もいて、その衣装はたいてい、男よりずっと派手だ。金の首飾り、色とりどりの布、骨を削った花飾り。見ているだけで、どんな国なのか少し分かる。
「こら、あなたたち!」
俺達の先生――女の子たちに礼儀作法を教える年配の女で、おれはこっそり〈サル〉というあだ名をつけている――が近づいてきた。
「今日は王が見えるんです。おとなしくなさい。この国のミコとして、みっともないところを見せるんじゃありません」
「はーい」
二人は肩をすくめて返事し、おれもつられて頭を下げる。
「王が見える」と言われても、おれたち子供にとっては「でっかい荷物とごちそうを運んでくるひげのあるおじさん」くらいの印象だ。
ただ、大人の会話から、衣装や連れてくる人で国の力をはかることができることは知っている。
「王が見えました!」
連絡役の声が響く。
女の子たちははっとして
「はい!ただいま!」と返事をして、ヒミコ様の館に向かう。
俺達男の子供も、慌てて館に向かう。
王を皆で出迎えるのがならわしなのだ。
「遅れちゃう~~!」
友達のトキが慌てて走ってくる。こいつはいつも行動がのろくて、大人に叱られている。
行列の気配が近づいてくる。甲冑の音、馬の蹄の音。ちらっと道の先を見ると、金飾りをたくさんつけた王と、そのまわりに鈍く光る鎧を着た兵士たち。ああ、金持ちの国だな、とすぐ分かる。
今日の貢物はなんだろう……。ゴクリ、と喉が鳴る。ヒサメに食いしん坊と言われたの、結構図星だったな。
「オノコ達!遅れますよ!」
〈サル〉がキーキー声で叫ぶ。おれはトキの手をとって、館へと走っていった。
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