教室
@Sakenom1
現実
体育の授業が終わり、生徒達は教室に戻って体操着から制服に着替える。男子だけの空間では、裸のまま話していたり、騒がしく走り回っていたりと女子がいる前とはまるで違う様相を呈していた。私自身は外交的な明るい人間ではないし、裸でいられるようなメンタルや体型を持ち合わせていなかったため、ひっそりと机で体を隠して制服に着替えた。周りの男子たちはつい先日受けた保健体育の授業の話をしている。性的マイノリティの授業だったためLGBTQなどの性的少数者についての意見を言い合っているのを聞こえていた。「俺ゲイとか普通に気持ち悪いから差別するわ。」不意に耳にしたその一言が、私の頭からつま先まで深い沼に沈んでいくようなどんよりとしたどす黒く暗い感情に陥らせる。私は生まれた時からゲイだった。高校生の今までそれが変わることはなく、男性を好きになってはその想いを伝えられず心にしまい込む作業を繰り返していた。ゲイということに負の感情を巻き込みながら生きてきた私にとって何気ないクラスメイトのその一言は、的確かつ簡単に私の性を踏みにじって粉々にしたのである。テレビやSNSを通じて多様性についての理解が浸透してきたと思っていたけれど、それは一部のメディアに明るい人間だけあって、理解しようともしない人間が沢山いるのではないだろうか。ようやく少しは気楽に生きれると理想を抱いていた矢先に鼻っぱしをへし折られた気分だった。黙って着替えていた私の視界は滲んでいき景色が歪んでいくのをぼんやり眺めていた。なんとか流れ出そうになるのを堪え、平然とシャツを着る。たまに道に広がっている油の気味が悪い虹色のような心情を丸め込み、友人となにもなかったかのように会話する。空には今にも雨が降り出しそうな暗い雲が立ち込めているのが見える。必死に何事もなかったかのように真っ黒な感情を心の奥深くに押し込み、次の授業の準備を進めた。
教室 @Sakenom1
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