ゆるやかな洗脳
脳病院 転職斎
第1話
昔付き合っていた彼女の母親は、熱心なエホバの証人だった。
彼女自身はエホバではなく、一介のプロテスタントだと自称していたが、彼女の運転免許証には「私は輸血を受け付けません」とはっきり書いてあった。
そんな彼女たちの宗教では闘争は禁じられていて、まず俺は自衛官時代を思い出さないことが義務付けられ、迷彩色のモノを身につけることが禁止された。
それから俺は、復活祭のパンを食べさせられるようになり、初詣などのお宮参りが全て禁止された。
しかし思い起こせば2019年、
これよりもっと強烈な経験を俺はしていた。
当時同棲していた薬物依存症の女性が、自らも薬物依存を克服した経験からか、こちらの行動の矯正に暴力まで用いていた。
俺の通帳は管理され、俺の趣味は彼女が認めたモノしか許されず、思考回路の変更まで強要された。
その上で、自分の世界観・趣味・音楽を俺に持ち込んで来て、俺はその趣味を好きになることを強制された。
彼女に逆らうと鉄拳制裁される。
俺は従順になるために、積極的に彼女の趣味に合わせるようになっていった。
そんな薬物依存症者の彼女だったが、
交際当初の関係は円満だった。
俺は昔から簡単に人を信用する傾向があるので、相手が薬物依存症で10歳以上歳上だろうが全く気にすることなく、いとも簡単に結婚までした。
さらに、結婚の嬉しさで舞い上がった俺は起業を計画し、俺自身が周囲をゆるやかに洗脳して出資金を集め、その札束を薬物依存症の嫁にばら撒いてInstagramに載せるなど奇行を繰り返していた。
そうして心が壊れた嫁は、俺が精神科に短期入院したのちに態度を豹変させ、俺の何もかもを支配するようになった。
嫁は、俺が自分と異なる行動を取った場合には暴力を、
たまに意見が合った時には食べ物を与え、
徹底的に俺を飼い慣らした。
やがて、コロナ禍が訪れると、俺は精神科から手洗いうがいのポスターを作るようお願いされたり(俺の意に反して)、社会からの同調圧力が段々強くなるようになって来た。
騙されているのは俺か?世間か?
俺は、安倍政権の初期のコロナ対策に徹底的に抗議するようになり、首相官邸に中指を立て、アベノマスクを燃やした。
そうした行動で嫁からの点数が稼げると思っていたからである。
そんな当時の俺の行動は、全て嫁の設定した規則に縛られていた。
例えば食事は、
朝食は10個入りくらいの葡萄パン1個
昼食はエースコックの醤油ヌードル、
夕食はガストのランチメニュー(16:00頃に食べに行く)、
たまに褒美でマクドナルドに行く、
お茶は必ず伊右衛門茶、
飲酒喫煙は禁止され、俺の好みも禁止され、逆らえば暴力が待っていた。
一方で、嫁は嫁なりの娯楽も俺に用意した。
午後15:00を過ぎればラジオを付け、北九州クロスFMを付けるのが嫁の日課で、俺はDAY+を毎日聞くことを強要させられた。
こんな生活が一年ほど続くと、俺の思考回路は嫁と全く同じになっていった。
しかし何故、俺はこんな目に遭っているのか?
過去に覚醒剤に手を出して更生施設に通っていた嫁からすれば、自分が経験した通りの習慣を俺に守らせることを義務だと思っていたからだろうか?
そんなある日のこと、
俺はガストで嫁より100円高い料理を注文し、その制裁として公衆の面前で顔にお茶を掛けられた。
「うちらは失業者なんよ!国が認めたキチガイなんよ!贅沢をするな!」
その場では俺は屈辱に耐えたが、家に帰っても嫁からの暴力は続いた。
この時、1年間我慢していた忍耐が滝のように崩壊した俺は、嫁を払い腰で投げ飛ばしたのちに馬乗りになり、口から血が出るまで叩き続けてしまった。
「それでもあんたが好きよー!」
嫁は叫び出した。
俺は、絶対的権力がこんなにも弱かったのかと言う驚きと、
絶対権力からこんなにも愛されていたのか言う驚きの狭間で葛藤した。
しかし、何もかもは洗脳だったのだ。
嫁は家から出て行ったが、その時になって初めて俺は自由を勝ち取り、同時に喪失感を覚えた。
それから月日は流れ、母親がエホバの証人の女性と同棲していた俺は、彼女からこのようなことを告げられた。
「あなたは発達障害だから私の気持ちが分からないの。
これからは毎日このノートに私が思ったことをあなたの言葉で書いて。」
ゆるやかな洗脳
ゆるやかな洗脳 脳病院 転職斎 @wataruze
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