婚約破棄の後で【1分で読める創作小説2025】

橄欖石 蒼

婚約破棄の後で

「レベッカ! お前との婚約を破棄する!」

 

 城の大広間。


 社交パーティーの最中に中央階段の上からそう大声で告げたのは、この国の第一王子、アレンだった。艶やかな金髪が、シャンデリアからの光に輝いている。

 

「そ……んな……」

 

 レベッカは立っていられなくなって、長いシルバーの髪を揺らしてその場にへなへなと座り込んでしまった。

 

「私は真実の愛を見つけたのだ、マリーと結婚する」

 

 アレンがうっとりと言って見つめる先は、彼の隣にぴったりと立つピンクブロンドの髪の可憐な乙女、マリー。彼女の瞳が、アレンを見つめながら美しく揺れる。

 

 招待客たちのざわつく中で寄り添い合うアレンとマリーの姿を、座り込んだままのレベッカがぼんやりと眺めていた、その時だった。

 

「失礼する」

 

 大広間に朗々と響いた、低い声。


 声の主は宰相の嫡男、カイルだった。


 彼は短く切りそろえた黒髪をきらめかせ、レベッカの前に進み出て片膝をついた。

 

「俺と、婚約してくれないか」

「えっ」

 

 レベッカは目を見開いた。

 

「まずは友人からでも構わない。必ず大事にする」

 

 カイルの大きな手が差し出される。レベッカは彼の手を、そっと取った。

 

 ——その日の、夜遅く。城のプライベートガーデンにある、東屋で。

 

「かんぱーい!」

 

 アレン、マリー、カイル、そしてレベッカは、ワインの入ったグラスを合わせていた。

 

「いやー、上手くいったね! これでみんな想い人と結ばれるわけだ!」

 

 アレンは上機嫌だ。

 

 この四人は望まない婚約を強いられていて、それをいっぺんにぶっ壊してしまおうと、社交パーティーで協力して一芝居打ったのだ。


 大広間でのあれもこれも全て、演技だった。

 

 アレンは婚約が決まる前からマリーと両想いで、レベッカとカイルも幼い頃から想い合っていた、というわけだ。

 

「本当に、良かったです。レベッカさん、これからもお友達でいてくださいね」

「ええ、私からもお願いするわ、マリー」

 

 レベッカとマリーはお互いの両手を握りながら微笑み合った。

 

「父上も含めて上が腐り切ってるからね。今後とも協力頼むよカイル」

「もちろんだアレン。任せてくれ」

 

 アレンとカイルも頷きあった。

 

 これはただの婚約破棄ではない。


 この国を根本から立て直すための、第一歩だった。

 

 ——でも、今夜だけは。私たちの恋と友情に、乾杯。



******

おわり

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