第2話

スーツの男が前に引き出される。顔色は青白く、声も震えていた。

「現金五万円と、会社の身分証がなくなっています」


私は唾を飲み込む。

――現実だ。逃げ場のない狭い車両の中で、犯人は必ずこの中にいる。


刑事は短く息をつき、順序立てて話を続けた。

「それでは、順番にお話をうかがいます」


車内の空気は一層重く、静寂に近い張りつめた緊張感が漂った。

外の世界のざわめきなど、もう遠いものに思える。

ここにいる全員の視線が、ただ刑事の言葉と互いの動きに吸い込まれていった。


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