第15話 家電量販店

「あれ……。動かねえな」


 コンビニ弁当を買ってきて食べようとした矢先、電子レンジが動かないことに気づいた。


 おいおいなんでだよ、これ温めるの必須のやつだから、電子レンジ動かねえと困るんだけど……。うんともすんとも言わねえな。仕方ねえ、新しいの買いに行くか。


「えーっと……。あったあった」


 俺が取り出したのは、隣駅にある家電量販店のチラシ。なんか色々安くなってるみたいだし、古い型のでもいいから買いに行ってみっか。


 騒ぐ腹の虫を聞きながら、適当に身支度をして外に出た。


「お、ここだ。早速入ってみっか」


 家電量販店に着いた俺は、自動ドアを通って入店。しっかし広いな。どこまでも家電が並んでる気がするわ。なんかわくわくすんな。


 でも広すぎてどの電子レンジがいいか分かんねえな。大量にありすぎだろこれ。仕方ねえ、気が進まねえけど店員に聞くか。声かけると怖がられるから、あんまり話しかけたくねえんだけどな。


 俺は近くにいた女の店員に、できるだけ柔らかく声をかける。


「あのー、すみません」


「はい何でしょうか? わたがし機の試食販売ならあちらですよ?」


「探してねえよ! ここは祭り会場か! ……って心音じゃねえか! え、お前ここにもいんの!?」


 振り返った店員は、見慣れたモデル級美女。何か機会をいじくりながら、顔だけこちらに向けてくる。いや茶髪ボブの時点で嫌な予感はしてたけどさ、流石に隣駅にまでいると思わねえしじゃん。


「やっほやっほ健人先輩! どうしたのこんなところで? 健人先輩って普段家電使わないでしょ?」


「使うわ! 俺を何だと思ってんだお前は!」


「え? ツキノワグマの子孫でしょ?」


「ツキノワグマまだ絶滅してねえよ! 人間だわ俺は!」


「嘘つかなくてもいいよ、洞穴で生活してるの知ってるんだからね?」


「失礼がすぎるだろ! ちゃんとアパートに住んでるわ!」


「知ってるよ。洞穴一丁目のアパートでしょ?」


「じゃあ洞穴じゃねえか! その名前なら例え建物があっても大分類は洞穴だわ!」


「墨汁って牧場と似てるよね」


「関係無さすぎるだろ! ちょ、いいから話聞いてもらえる!?」


 心音はようやく俺の方に体を向けるが、ずっと手に持った機械をいじくったままだ。何なんだあれ? ずっと触ってるけど。


「心音、その機械なんだ?」


「ああこれ? 最新のだよ! あの画面に配管工が映ってるでしょ? あの人を操作してゴールまで行くの!」


「ゲームじゃねえか! 何お前バイトサボってゲームしてんだよ!」


「ゲームじゃないよ! これは機械がちゃんと動くかの動作確認! ああちょっと健人先輩が話しかけるから死んじゃったじゃん!」


「がっつりゲームしてるわ! 動作確認ならそんな長々やる必要ねえだろ!」


「あと279機しか無いんだから、集中させてよね!」


「めちゃくちゃやり込んでるじゃねえか! お前いいからゲーム置け!」


 渋々コントローラーを置いた心音は、嫌そうに俺に向き直った。いやちゃんと仕事しろよ? ゲームすんのが仕事じゃねえだろ。


「それで、何の用? 私あそこのボス倒さないとだから早くしてよね」


「ゲームの話はもういいわ! いや俺ん家の電子レンジが壊れちまってよ、なんかいいのねえかなと思って来たんだよ」


「なんだ、そんなことか! ならいいのがあるよ! のこのこ着いて来てよね!」


「客に言う言葉かそれ!?」


 広い店内を小走りで進む心音の後に着いて、俺も早足で歩く。そんな急がなくてもいいんだけどな。今日別に他に用事ねえし。

 ああ、多分こいつゲームしたいだけだわ。だから急いでんだわ。何やってんだこいつ。


「ほら着いたよ! ここ!」


「ん? なんだこれ?」


「電気腹巻きだよ! これをお腹に巻いたら温かくなるでしょ? その熱でなんでも温められるよ!」


「回りくどいことすんなよ! 俺レンジ探してんだって!」


「え? でもレンジで鶏卵なんて温めたら爆発するよ?」


「誰が鶏卵温めるっつったよ!? なんで俺腹で鶏卵温めてんだ! 親鳥か!」


「どっちかって言うと親ゴリラだよね」


「やかましいわ!」


 気を取り直して電子レンジコーナーへ向かう。さっさと紹介してくれねえかな!? まだ電子レンジ1つも見てねえんだが!?


「じゃあこれとかどう? 最新機能が付いた電子レンジだよ!」


「最新機能……? 何ができんだ?」


「温めてる間にずっと日本国旗を掲げながら君が代を歌ってくれるよ!」


「レンジの思想強すぎるだろ! なんで温めてる間君が代聞かなきゃいけねえんだよ! 国民の祝日か!」


「3点でよろしいですか?」


「1点も要らねえよ! 他ねえの他!?」


「他だと冷蔵庫になりますね」


「なんで!? 温めたいっつってんだろ!」


「まあまあ、心頭滅却すればキモ股上氏って言うじゃん?」


「火もまた涼しだろ! 意味も今の状況と逆だし!」


「冷蔵庫が7点ですね」


「だから要らねえって!」


 え、こんだけあって結局あの思想強いレンジしかねえの? めちゃくちゃ嫌だけどあれしかレンジねえんだもんな……。なら買うしかねえのか……。


「仕方ねえからこの国歌レンジ1点頼むわ」


「お買い上げありがとうございます! レンジに室外機はお付けしますか?」


「何のためにだよ! レンジだけでいいわ!」


「ありがとうございました〜! 外に送迎バス用意ございますので」


「テーマパークか! 普通に帰るわ! それちゃんと配送頼むぞ!?」


「はいはーい! 任しといて!」


 本当に大丈夫なんだろうな……。知らねえけど、もしちゃんと届かなかったらまたあいつがクビになるし、俺は思想強いレンジ使わなくて済むからいっか。


 数日後、電子レンジと共に届いた手紙には、心音が例の家電量販店をクビになったことが記されていた。どっちにしろクビだったのかよ!

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