第14話 ラーメン屋

「また……ダメだった……」


 ガックリと肩を落としながら電車に揺られる。せっかく髪も切って写真も変えたのに、結局俺自身の印象が変わらないから、面接には落ちちまうんだなあ。どうしたもんか。


『次は〜亀風〜亀風〜』


 最寄り駅への到着を知らせるアナウンス。もう着いたのか。うじうじ考えてる間にも、時間は進んでるんだ。俺は前を向かなきゃいけねえんだ。


 そんなことを言い聞かせ、電車から降りる。すると醤油スープの匂いが俺の鼻をくすぐった。これは……ラーメンか? そういや駅の近くにラーメン屋があったな。最近行ってなかったけど、久しぶりに行ってみるか。


 駅のすぐ目の前にあるラーメン屋の暖簾を潜ると、元気な女の声が俺を出迎えた。


「らっしゃい! フランスパンはかったい!」


「何を言ってんだ! ラーメン屋でフランスパンの話すんな! ……って心音!?」


「やっほやっほ健人先輩! 楽しそうだね! 彼女でもできた?」


「楽しそうじゃねえしできてねえし! なんでお前いつも俺の行くところにいんだよ!」


「で、相手はどんなメスクジラなの?」


「俺クジラじゃねえよ! どんだけデカく見えてんだお前!」


「あ、シャチの方?」


「方ってなんだよ! 俺そんなデカい海洋生物と付き合わねえから!」


「え? もう陸に上がってきたの? 進化早いね!」


「舐めんなよお前!?」


 心音は湯切りをしながらチャーシューを切り、ネギやメンマを盛り付けている。どうやってんだあれ。すげえなおい。


「健人先輩、とりあえずカウンターでいい? 今テーブル席とVIPルームは埋まってるの!」


「キャバクラか! なんでラーメン屋にVIPルームあんだよ!」


「じゃあそこのカウンターで! 1蹄様ご来店です!」


「馬の数え方! さっきからお前俺のこと何だと思ってんだ!」


「え? 牛のつもりだったよ?」


「牛の方だったのかよ! いや人間扱いしてもらえる!?」


「人間様ご来店です!」


「強調しなくていいわ! ちょ、座らせろお前」


 ようやくカウンター席に座った俺は、メニューを物色する。醤油ラーメンはテッパンだよなあ。唐揚げ定食にするか餃子定食にするか、それともチャーハン付けるか……。迷うな。心音にオススメ聞いてみっか。


「なあ心音、ここのサイドメニューでオススメあるか?」


「あるよ! うちのオススメはクラブハウスサンド!」


「随分アメリカンだなおい! なんでラーメン屋にそんなメニュー置いてんだ!?」


「あとはハンバーグセットとかもあるけどどう?」


「もうファミレスじゃねえか! ここラーメン屋のプライドとかねえの!?」


「ラーメン屋の迂回路?」


「言ってねえよ! プライド!」


 何言ってんだこいつは……。結局何がオススメか分かんなかったじゃねえか。まあいいや、とりあえず唐揚げ定食にしとくか。


「すいませーん」


「はーい! 気が向いたらお伺いしますねー!」


「気が向かなくても来いバカ! 注文取らなきゃ始まんねえだろ!」


「もう仕方ないなあ。で、ご注文は?」


「醤油ラーメン大盛りの唐揚げ定食で頼むわ」


「はいよ! 韓国冷麺入りました!」


「入れんな入れんな! ちゃんと聞いてもらえる!?」


「分かってるよ! 醤油ラーメン大盛りの唐揚げ定食でしょ? 唐揚げにストローはお付けしますか?」


「付けねえよ! 発想がデブすぎるわ!」


「唐揚げの焼き加減はいかがされますか?」


「ステーキ屋か! いいから揚げてもらえる!?」


「醤油ラーメン大、唐揚げ一丁入りましたー!」


 心音の元気な声が響くが、返事は無い。え、何今日ワンオペなのこいつ?


「健人先輩、今日はお休み?」


「休みって言うか面接だったな。また落ちたけど」


「へー! 普段お休みの日は何してるの?」


「まあゴロゴロしたり筋トレしたりだよ。あんま趣味っていう趣味はねえな」


「筋トレ! だからそんなにムキムキなんだね! 週何回トレーニングしてるの?」


「美容室か! お前前回でやれよそれ!」


「お先定食のライスです! サービスで大盛りにしてトンカツ乗せて卵でとじておいたよ!」


「じゃあもうカツ丼じゃねえか! それだけで腹一杯になるわ!」


「ご一緒に海鮮丼はいかがですか?」


「要らねえよ! ラーメン食わせろ!」


 目の前にでーんと置かれたカツ丼を見て絶望しつつ、落ち着くために水を飲む。やべえ、食い切れっかなこれ。ラーメンも大盛りにしちゃったけど……。


「はいよ! ラーメンお待ち! サービスで麺をパスタに変えておいたよ!」


「余計なことしかしねえなお前!? なんで俺ラーメン屋でカツ丼とパスタ食わなきゃいけねえの!?」


「パスタソースはカルボナーラに変更でお間違い無かったですか?」


「全部間違ってるわ! え、なんで俺の目の前にカツ丼とカルボナーラあんの!? ここ何屋!?」


「ごゆっくりどうぞ〜」


「おい去るな去るな! これをなんとかしてから去れ!」


 結局心音はそのまま去ってしまい、俺は注文していないカルボナーラとカツ丼を食べることになった。ラーメンの口だったんだけどなあ……。周りにいる人たちからもめちゃくちゃ変な目で見られてんな。そりゃそうか、ラーメン屋でパスタ食ってるやつ見たことねえもんな。


 なんとか平らげて会計に向かおうとすると、心音が近づいてきて俺に耳打ちした。


「お客様、シェフがお会いしたいと」


「シェフお前じゃねえか! なんだよさっさとしろよ」


「お会計よろしいですか?」


「何も用ねえのかよ! いやもういいわ。払うから。いくら?」


「2750円になりまーす!」


「きっちりパスタとカツ丼の分取んのな!? 頼んでねえのに!」


「おや? 飲み逃げですか?」


「せめて食い逃げだろ! 俺カツ丼飲まねえから!」


「ありがとうございました〜! またお待ちしておりま〜す!」


「もう二度と来ねえよ!」


 ほんっと好き放題してんな。どうなっても知らねえからな。外に出ようとしてドアの方向いた時、激怒したおじさんが体震わせてんの見てんだからな。

 ラーメン屋のエプロン付けてたから多分あれが店主だろうな。さ、心音、クビを覚悟しとけよ?

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