【短編小説】秘密のパビリオンへの招待状

shosuke

秘密のパビリオンへ…

このお話は完全なるファンタジックフィクションです。

もし関西万博に秘密のパビリオンがあったら?の発想から作りました。



万博会場は灼熱の太陽光線が容赦なく降り注ぎ来場者を包んでいた。

入場時間の11時より早く着き指定された行列に並ぶ。

「早く着いちゃったね。でもその分パビリオンの列に早く並べるかもね!」

そんなことを言いながら指定された時間を待つ。


レンタルの日傘を差す人が多い中、周りの邪魔になるかもと日傘は取らなかった。

そうはいっても灼熱の太陽は熱を地上に放出し続けている。

二人とも汗だくになって列に並んでいた。

そんな姿にお互い吹き出す。

そんなことをしているうちに自分たちの入場の時間を迎えた。


会場に入るとものすごい人の波に圧倒される。

「どこのパビリオンに行く?」そう尋ねると彼が

「まず大屋根リングに登ろうよ!」

「いいね!」

普通のカップルだったら一目散に目当てのパビリオンに向かっただろう。

しかし私たちはまず万博の象徴である大屋根リングに登った。


大屋根リングは二層に分かれており私たちは一番高い位置を目指してリングを回る。

地上から離れているのに地上の草原を歩いているような錯覚に陥る。

「平和だなあ」

草の丘を眺めながら彼がいう。

確かにのどかだ。

眼下の喧騒を忘れるくらい静かな時間が流れている。

私たちはこの大屋根リングが気に入った。

外周を回って地上に降りるとすでに正午を超えていた。

「お昼を食べよう」

彼の提案でフードコートに入る。

万博のランチは高いと言われていたが高いものばかりではなく手頃な価格のものもあった。

二人で好きなものを買いお互いシェアする。


さていよいよパビリオンの列に並ぶ。

アメリカ館やイタリア館は長蛇の列なのでコモンズ館に入る。

一つ一つのブースは小さいが珍しい国のブースもありそれなりに楽しむ。


あっという間に会場は西陽が傾く時刻になる。

「どうする?一つくらいパビリオンに並ぶ?」

「いいよ。君はどう?どこか並びたいかい?」

「ううん。それならもう一度大屋根リングに登らない?きっと夕陽が綺麗に見えるよ」


二人で大屋根リングに登り夕陽を眺める。

大屋根リングの芝に涼やかな風が吹き抜けていく。

一つもパビリオンが見られなくてもこうして二人で夕陽を眺めている。

この時間が何よりも大事だったし幸せな時間だった。


リングから降り出口ゲートに向かっていると人が並んでいないパビリオンが目に入った。

「あそこのパビリオン、どこの国かしら?誰も並んでいないわよ」

「行ってみようか!」

二人でパビリオンのほうへ歩く。

すると中から小さな光の輪がこちらへ飛んでくる。

光が私たちに話しかける。

「ようこそ!私は万博の妖精。ここは特別なパビリオンです!ここにいながら世界各国を旅することができます!」

光の輪が私たちに語りかける。

「どうしてここのパビリオンは誰も並んでいないの?」

光の輪に問いかける。

すると

「このパビリオンは絆を大切にする人にしか見えないし、入ることができないのです。

あなたたちの行動は先ほどから見ていましたよ。混雑する状況にも文句一つ言わず限られた環境で精一杯楽しもうとしていましたね。何より大屋根リングで夕陽を見ている二人の気持ちがぴったり重なって、感動を共有しているのが見て取れましたよ。あなたたちは当パビリオンにふさわしい人たちだと、このように招待させていただきました」


私たちが?

そう思いながらも一つでもパビリオンに入れるのはありがたい。

光の輪に導かれるように入り口に入る。

「さあ!どの国に行きたいですか?」

光の輪が私たちに尋ねる。

「どこでもいいの?」

「はい。どこでもいいですよ」

「じゃあイタリアへ!」

「では、出発します!」


その声と共に場内に光の矢が伸び次の瞬間私たちはイタリアのコロッセオの中にいた。

あまりのリアルさに地面の砂を掴んでみる。

サラサラと指の間を滑る砂。

本物だった。

「行きたいところへ本当に連れて行ってくれるの?

すると光の輪が

「そうです。このパビリオンは展示ではなくあなたたちをリアルな現地へお連れします」

行きたいところを思い浮かべると景色が瞬時に流れその場所が目の前に広がる。

イタリアでは本場のピザを食べフィレンツェで絵画を観た。

「すごいね!普通イタリアの美術館ってすごく混雑して落ち着いて絵も見られないもんね」


「次はどこへ行きますか?」

「じゃあ、トルコへ」

トルコではトルコアイスを食べる。

「お餅みたい!まるで雪見だいふくみたいだね。」

そう言いながら二人で分け合う。


ひとしきり行きたい国を体感し次が最後の国ですとアナウンスが入る。


「そういえばアメリカに行ってないよね?」

「じゃあ最後にアメリカへ!」

そういうと再び場内に光の矢が伸び次の瞬間私たちはニューヨークのタイムズスクエアにいた。


そうだ!万博のアメリカ館では月の石が展示されているという。

「せっかくアメリカに来たから月の石が見たいな」

「わかりました」


光の輪がいうと目の前が真っ暗になる。

目を凝らして周りを見る。

すると目の前に地球儀が見える。

大きな大きな地球儀。

しかし地球儀にしては大きすぎることに気がつく。

そして私たちが立っている地面をよく見てみる。

灰色の砂にたくさんの窪み。

もしかして?

目の前をよく見てみる。

「あれって本物の地球じゃない?」

「じゃあここって本物の月?」

「そうです。ここは月面です」

地球以外でもいけるのかと感動していると光の輪がいう。


「あなたたちの感動する心。どんな時でもお互いに感動をわけあえる心を持つ人。そんな人しかこのパビリオンは体感できないのです。パビリオンを思いっきり体感してください!」


そういうと光の輪が消え月面に二人だけになった。


月面に腰掛けて目の前の地球を眺める。

宇宙は無音だというが本当に無音だ。

お互いの鼓動が、こうしているだけでも聞こえる。

シンクロする鼓動。

視線を正面に向けると瑠璃色に輝く地球が目の前に広がる。

なんて綺麗なんだろう!

こんな綺麗な景色?いや奇跡とも言える地球を眺められる幸せ。

何よりこの状況を体感できる人があなたでよかった。


もしこの地球を見ているのがあなたでなかったらこれほど感動しただろうか?

多分ここまで感動しなかっただろう‥。

あなただから共有できる、感動できる。

あなた以外の人なんてありえない。

そう思うとかけがえなさと愛おしさに胸が熱くなる。


これまで一緒にいてくれてありがとう。

そしてこれからも一緒にいたい。

そう強く願った時、目の前が真っ白く光り意識が遠くなった。


目が覚めると万博会場のベンチに二人で座り眠り込んでいた。

二人顔を見合わせてー今見たことは現実なの?ーと確かめ合う。

しかし夢でも現実でもどうでもいい。

そう思えるほど二人の心は満ち足りていた。


夢でも現実でもこの万博に来てよかった。

二つの心が一つになれる。

願いではなくそうなれるとわかったこと。

それを知っただけでここへ来て良かったと思える。

そして、あの幻のパビリオン…。

余韻に浸り、寄り添いながらいつまでも輝く夕陽を心を合わせて見つめていた。





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【短編小説】秘密のパビリオンへの招待状 shosuke @ceourcrpe

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