マッチングアプリ〜偽りの恋〜

@mimizukey

第一話 隣県の彼方 

私はもう、恋なんてしないと決めていた。


一度結婚に失敗し、二人の子を育てる身。

マッチングアプリという、どこか軽薄な響きの世界で、また傷つくのは御免だった。


それでも、友人がアプリで幸せな結婚をしたという話を聞き、これが人生最後のチャンスかもしれないと、夏の終わりに携帯を手に取った。


たくさんのプロフィールが流れていく。


どの顔も、どの言葉も、私には響かなかった。


そんな日々が続いた十月のある日、

ふと思いついて隣県に設定を変えてみた。


すると、彼のプロフィールが目に留まった。


顔立ちも、言葉選びも、どこか穏やかな雰囲気を持っていた。


「いいね」を送り、やがて始まる他愛のないやり取り。顔も知らない相手との会話に、はじめは戸惑いしかなかった。


それでも、彼の言葉は不思議と私の心をくすぐった。



初めて電話をかける時、心臓が今にも飛び出しそうだった。


隣県という距離を告げると、彼は「気にしないよ」と笑った。その声が、深く、温かく、私の心を掴んだ。


彼が、私の声が好きだと伝えてくれた。


それからというもの、私たちは毎日のように電話をした。


たわいもない話、仕事の愚痴、互いの夢。


会話は尽きることがなく、いつしか「愛してる」「好きだよ」という甘い言葉が当たり前のように交わされるようになった。


会ったこともない相手に、こんなに感情が揺さぶられるなんて、思ってもいなかった。



しかし、彼が私の過去に嫉妬し、会ったこともないのに束縛を始めたとき、私の心に小さな嵐が起きた。


それでも、彼の言葉の裏にある「僕だけの君でいてほしい」という気持ちに、私は胸を締め付けられた。


片道二時間以上かかる距離に、なかなか会うことは叶わない。


気づけば、街は冬の気配を纏い、十二月に入っていた。


会うまでの間、私たちは毎日電話をし、写真を送り合い、互いへの想いは募るばかりだった。

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