時計の心

曖惰 真実

時計の心

“止まった時計は時をきざまず、その多くは存在を忘れ去られた”


秒針であると自覚した時、針は既に歩みを止める事を許されない


希望の世界を指した秒針は、傾くに連れ、眼下に暗きが拡がっていく


10を指した辺りから先の見えない視界に不安を覚えつつ、

じりじりと暗きににじり寄り、それは不気味な笑みでこちらを伺っている


逃走本能と焦燥感をよそに、針は15を指し、暗き世界に足を踏み入れる


負のベクトルを歩む針は、頭に血が上り、感覚が麻痺を起こす


だが秒針は着実に進み、30を指し示す頃には新たな秒針をみ、

別の時計に秒針を与える


秒針は暗い世界で正のベクトルを刻む、新たな秒針によって


そして秒針は45を迎え、自分の役目の果てを認識する


役割の終わりに希望を抱き、その先の未来に不安を覚える


そして60を指した時に、新たなる世界を迎え、長針は次に進む


長針が指し示すベクトルを微かに感じ取りながら、惰性によって秒針は進む


一周した秒針は自身がどこで止まるかは判らない、だがしかし、


“止まった時計は時をきざまず、その多くは存在を忘れ去られる”

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時計の心 曖惰 真実 @aidamakoto

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