第6話

ドライバーンの鉤爪が、クロハ目掛けて振り下ろされる。

空を裂くその挙動は、獲物を仕留めるために磨き上げられた、冷酷な捕食者の本能そのものである。


「やらせるかっ! シマセキ、力借りっぞ!」


フレイは反射的に地を蹴り、自身の胴の倍はある太い腕に飛び付いた。

シマセキに蓄積された魔力が解放され、右腕に注がれていく。右腕を覆う血管が赤熱したかのように浮き上がり、魔力は行き場を求めて爆発的な力を発揮する。


石のように硬いはずのドライバーンの前肢が――メキメキ!

フレイの手の中で、グロテスクな音を立てて軋んだ。


「グアァー! グワアァアーーン」


これには堪らないと、ドライバーンの悲痛な咆哮が荒野に轟き渡る。

よろめいた鉤爪の軌道は僅かに逸れ、寸前でクロハの頭上を掠めるて果てた。


「あぶっ! よくもやったわね……」


怒りをメラメラと燃やすクロハに、フレイは唖然とした。

命の危機に瀕した直後であれば、普通なら恐怖で逃げだすものだが、この金髪頭はまるで逆だ。

助かった安堵よりも、命を奪われかけた屈辱のほうが感情を支配しているようだった。


「舐めるんじゃないわよ!」


クロハは一息でドライバーンの懐に飛び込み、手にした短剣を逆手に構える。

照り返す光を浴びて鋭く煌めいた刃は、可憐な軌道を描き、ドライバーンの眼球へと突き刺さる。


「――ッ!」


急所を射抜かれたドライバーンは、断末魔をあげる間もなく全身を爆散させ、灰と魔力の粒子を散りばめて消滅した。

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不幸な魔王 @comcomtomato

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