第5話 魔物到来

魔物の名はドライバーン。

図太い尾に鋭い爪と牙。石のように固い巨体を悠々と浮かせる強靭な翼を持つ。その姿は数千年前に絶滅したとされるドラゴンに良く似ている。


ドライバーンがこちらの居場所を嗅ぎ付けてきた理由を、フレイは考察する。


魔力を秘めた生物――魔物は、自身と同格の魔力を秘めた魔物に本能的に惹かれる性質がある。

そうして出逢った魔物は、魔物同士で命を削り合う。敗者は魔力を散らし灰となり、勝者は敗者の魔力の一部を取り込み、更なる強さを求めて再び相手を探す。


これを十年前に始まった世界のもう一つの顔、『魔界システム』と呼ぶ。


そしてこのドライバーンだが、おそらく先程まで飛ばしていたアルテマに喚起されたのが原因だろうと、フレイは踏んだ。

アルテマは微弱ではあるものの、確かな魔力を秘めているのである。


「グアアアァァアーーーン!」

大地を揺るがして降り立つと、戦いの幕開けを告げる咆哮で二人を威圧した。


強敵に対して自然と対峙するぐちゃぐちゃ頭と金髪頭は、互いの隙を埋め合うように身を固め、それぞれの獲物に熱を伝える。

フレイは右腕に、クロハは短剣に。


先手を取ったのはドライバーンだった。大きくて鋭い鉤爪を容赦なく振り下ろす。


フレイは反射的に身を捻り、地を転がって回避した。地面が爆ぜたような衝撃に体幹を崩しかける。

砂埃が舞い上がり、少女の姿を見失う。

「おい金髪! 平気か?」

呼びかけても返事はなく、耳に届くのは羽ばたきの唸りばかりだ。


次の瞬間――。

砂煙を切り裂いて、細身の影が飛び出した。金色の髪を振り乱して、ドライバーンの巨体に果敢に挑みかかっていた。

滑るように足場を駆け、敵の巨脚を縫うように抜け、下から喉元を目がけて短剣を突き上げる。

刃は確かに鱗の隙間を狙い澄ましていた。

だが――フレイには見えてしまっていた。


「効いてねぇ……!」


金属を打つような、甲高い音。

短剣の切っ先は火花を散らしただけで、石のような鱗を貫くことはなかった。

クロハの視界からは死角になっている。だから「届いた」と信じているのかもしれない。


「バカか!? 早く退けっ!」

「――え?」

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