第3話 魔王の手掛かり⁉︎

フレイの背後に忍び寄る、太陽光を纏ったように輝く金色ショートの少女――クロハ。


片手に携えた短刀は、獲物を狩る鋭さを放つ。

純漆黒の瞳に縁取られた大きな瞳は、どこか宝石のような艶を宿し、少年を射抜くように追っていた。


「あの発光体はなんなの?」

気付かれぬよう観察する。


少年にアルテマと呼ばれていたそれは、フワフワと上昇していく。明らかに異質な存在だった。

魔物にしては覇気がない。というか実態がそもそもない?


クロハは寒さに強く、冬でも半袖短パンで駆け回れるほど健康的な体だが、今は勝手が違う。

背筋に貼りつくじっとりとした悪寒が、かつて故郷を襲った忌まわしい夜を思い出させる。



「霞でも食おうってのか?」


少年の声はあっけらかんとしていて、まるで荒れ果てた町の残骸なんて気にしてないみたい。


「霞を食うって、仙人か!」


クロハははっとして己の口を塞ぐ。つい大きな声でツッコミを入れてしまった。



「ば、ばれてない?」


少年は見たまんま鈍感なようで助かった。



「魔王の悲しむ顔見たくないんだけどな……」


フレイのさり気ない独り言に、クロハの聴覚が鋭く反応する。

魔王……? 今あいつ、魔王って言った? それにやたらと親密なようだ。顔まで知っているというの?


魔王、私を悲劇に追いやった憎き相手だ。思い出すだけで怒りで体が熱くなる。私の家族を、町を、居場所を、無慈悲に破壊した。

世界に混沌の光を注ぎ、幾万の幸せを食い散らかす――世界の敵だ!


あの少年、魔王の仲間?


切先と同じ煌めきがクロハの瞳に宿った。先手必勝。



無警戒に伸びをするフレイに、後ろから襲い掛かる!

殺す気はない。だが、胸に渦巻く憤りが刃に力を与える。

短剣を喉元に突き付けて魔王の居場所を吐かせれば、それで終わる。

――そう、できれば良かった。


「きゃふん!」


思いがけず飛び込んできたフレイの膝に、顎を弾かれる。

まるで後ろにも目が付いているかのような的確な反撃に、クロハは大きくたじろいだ。


私に一撃をくれてもなお、こちらに目もくれない堂々しさ。隙だらけだなんて思っていた過去の自分を叱責してやりたくなる。

汚らわしいぐちゃぐちゃ頭にこれまた汚らわしいジャッケット姿に、惑わされてはいけなかったのだ。


「ん? なんか膝痛てぇな……」


いや、やっぱり過去の私が正しかったのか? ぽりぽりと優雅に後頭部を掻く姿を見るに、分からなくなってくる。


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