第2話 少年とアルテマ

「腹減ったな……シマセキを探す前に、飯だろ」


フレイは地図をジャケットの胸に仕舞って、曇天を仰いだ。

今にも落ちてきそうな鈍色にやきもきしながら、癖っ毛の栗色髪をぐしゃぐしゃとかき回す。


風が砂埃を運び、口の中に言い知れぬもの寂しさが広がった。

視界を下げると魔物に荒らされ、骨を抜かれたように沈黙する町跡が嫌でも入ってくる。

だがフレイの顔は陰ることなく、むしろひどく場違いなほど陽気だった。



「アルテマー! そろそろ行くぞー!」


壁だけを残して口を開ける煉瓦造りの家を、縦横無尽に駆け巡る発光体に呼び掛けたが、返事はない。


「来たか……って、どこ行くんだよ!」


ふわりと舞い上がり、空を裂くように飛び去った。まるで何かを嗅ぎつけたかのように、白かった淡い発光色が赤に染まる。


「霞でも食おうってのか?」


アルテマのことは考えるだけか無駄か、どうせ飽きたら戻ってくんだろ。いつもそうだ。


「しっかし、シマセキはどこにあるんだ? 魔王の悲しむ顔、見たくないんだけどな……」


ベッドで半身を起き上がらせている白いワンピースがよく似合う少女の姿が、脳裏に浮かんだ。


フレイは己の右腕の肉に嵌め込まれたシマセキに問いかける。

これが大量にあれば、荒れ果てた世界から魔物を取り除くことが出来るのに。


世界を覆う光の粒子は、集まると魔物に化ける恐ろしい輝きだ。

シマセキには世界の理を食らうかのように、その光を飲み込む力がある。



「やっと戻ったか!」


アルテマがフレイの右腕に溶けるように消えた。正確には、右腕に嵌め込んだシマセキに、だが。


シマセキを右腕に嵌め込んでからのそこそこ長い付き合いとなるが、未だに分からないことの方が多い謎だらけの相棒だ。


「ま、なるようになるか。帰ろ」


フレイが身体をググイと後ろに伸ばして気合を入れ直す。

――入れ直そうとしたが、硬い何かが膝にぶつかり失敗に終わった。

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