ある男の一生
村田コーギー
第1話
書けない。
どうしても書けない。
僕は何も思いつかない。スリルと興奮に満ち溢れた壮大な冒険の世界。
どうやっても思いつかない。
あれほど子供の頃に読んで、心躍らせ、憧れていたはずなのに。
“いつかは僕も皆を驚かせる様な冒険の物語を書くんだ!”
そう意気込んでいた。
ところがいざ筆を握るとそれが文字に出来ない。
“ああ、文才がないんだな・・・・”
だから僕は筆を棄てた。
筆を棄ててから夢も見たくなくてひたすら社会に出て現実へ目を向けた。
とにかく働いた。
とんでもなくブラックな会社だったもんで誰も行きたがらない色んな場所へ行かされたよ。
それこそ世界中だよ。
ある時は政情が不安定な国へ飛ばされて、死にたくないから機関銃片手に逃げ回っていたら、結果として反乱分子の片棒担いでその国のクーデターを成功させたよ。
命からがら帰った途端、名前も聞いた事もない南米の小国へ飛ばされて、気が付いたらガイドに騙されてジャングルへ置いてけぼりだ。
飲まず食わずで幾日もジャングルさまよっているうちに訳わかんない遺跡にたどり着いて、金銀財宝を見っけて、偶然後からやって来た大学の発掘チームに保護されて、やっと帰国したよ。
帰国したら、俺への扱いがバレて、あの会社の首脳陣が全員逮捕で社内が大パニック。
誰も人がいないからって俺がトップに担ぎ出されてたよ。
素人に会社経営なんてさせるなよ。
まあ、遺跡到達で財宝の分け前があったから、それで資金は何とかなったよ。
ブラックな会社だったからこれまでの取引先がイリーガル過ぎて、まともな相手がいやしない。
頭を抱えていたら唯一クーデターの片棒担いだ国が取引先になってくれたよ。
新興国で物が無いって言うからうちが窓口で向こうが希望する取引して、見返りに希少価値ある資源を独占的に扱わせてくれて、まあなんとか潤ったな。
なんやかんやで会社が持ち直して、なんか気が付いたら大企業になって嫁さん貰ってあっという間に人生の終盤に来たよ
「俺・・・・何にも書けなかった。だから筆を折ったんだ・・・・」
フルムーン先で妻に昔話をしたよ。
話を聴き終えた妻は妻は静かに言ったよ。
「貴方・・・・もう描いてますよ。壮大な“人生”と言う物語・・・・」
もう一度、書いてみようか。
死ぬまでのいい暇つぶしだ。
あの世へ持っていく壮大な土産話・・・・
ある男の一生 村田コーギー @korgy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます