第2話

第二章 息子アシルの邂逅(2055〜2058)


1. 都市へ


2058年、東京。

アシルは成人の体格を持つ青年として街に立つ。彫りの深い顔、長い手足、人を惑わす瞳――蚊人間特有の美。

母セラが採取した「真知子の血液サンプル」は彼の遺伝子の深部に組み込まれている。会ったこともない女へ引かれる運命として。


「弱点を知れ」――母の教えを胸に、彼は政治の中枢へ向かう。


2. 政治と世論のノイズ


国会周辺は「共生法案」をめぐるデモで騒然としていた。

SNSでは「#針の奴隷になるな」「#共生こそ未来」が一晩で何百万件も踊り、ニュース番組はカウントを煽る。

人気アイドルが「専属の蚊人間」に依存していたスキャンダルで倒れ、スポンサー契約が全て解除。

地方では「蚊人間立入禁止条例」を定める自治体が増え、掲示板には「この町から出て行け」の落書きが赤く残る。

英雄と脅威が、ハッシュタグの間でせめぎ合っていた。


3. 秘書との再会


瀬戸議員の事務所。

「新聞記者の山田と申します。蚊人間問題で取材を」――アシルは偽名で受付に立つ。

振り返った秘書の顔に、心臓が強く跳ねた。凛とした眼鏡の奥の瞳。

「佐藤真知子と申します」


真知子は職業的な笑みのまま、一瞬だけ警戒を走らせる。

「どこかで……お会いしたことが?」

説明できない既視感。それは、セラが仕掛けた遺伝子レベルの引力だった。


4. 裏側


後日、取材の名目で出入りを重ねる。

「議員は慎重派です。戦争で助けられましたが、日常の危険は無視できません」

真知子の言葉には警戒と誠実さが宿る。アシルは同調を装い、情報網を広げる。


そのとき、議員の首筋の新しい刺し痕に気づく。

蚊人間が接触している。共生を唱えつつ、裏では影響力の奪い合い。

「政治は、針一本で揺らぐ」――母の教えが冷たく響く。



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