Mへの手紙

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第1話 鎌倉



□鎌倉

(40年前?学生の時、まだ銀行のATMもない時代。ふたりで鎌倉のおしゃれなフレンチレストランに入って、値段のないメニューで追加でデザートを頼んだら、案の定、帰りの電車賃が足りなくなって…。)



Mとふたりで鎌倉に行ったとき、お金を交番で借りたことがあったでしょ。

それがすごく恥ずかしくて、もう鎌倉には行けなくなっちゃったんだって言っていたよね。


ごめんね、私そんなこと全然知らなかったの。

Mが打ち明けてくれたのに、私の反応はまったく逆だったんだ。


だって、警察の人が300円とかを貸してくれて、そのおかげで電車に乗って無事に帰れたでしょ。

「日本ってなんて安全で親切な国なんだろう」って思って、私は鎌倉の警察のおかげで助かった、ってむしろ嬉しくなっちゃったの。

それで鎌倉がすごく好きになって、足しげく通ったし、次の日にはすぐにお金を返しに行ったんだよね。


だから私にとっては「安心する場所」となって、ますます鎌倉が大好きになってしまった。

何度も「鎌倉に遊びに行かない?」って電話で誘ったんだけど、Mはいろんな理由をつけて断ってきて。

そのとき私は「私と出かけるのが嫌なのかな」って思ってしまったんだ。

それでだんだん電話するのも、誘うのもやめてしまった。


もしちゃんと理由を言ってくれていたらよかったのに。

40年以上の間、そのことをMが明かさなかったから、私はずっとわからないままだった。


それを初めて聞いたのは、40年後。おととし、私の住んでいる田舎に片道6時間もかけて病の中会いに来てくれて。

ホテルのレストランでみんなでお昼ごはんを食べたときだったよね。

笑い話として聞いたけど、笑えない部分もあって、なんとも言えない気持ちになった。

本当に大笑いもしたけれど、もっと早く言ってくれていたら、きっともっと交流できたと思うんだ。


だから、Mとの間には「齟齬(そご)」があったんだなと今は思う。

そごっていうのは、噛み合わせが悪いような、奥歯に物が挟まったような、そんな違和感。

途中からMとの間にそういう感覚があったけど、理由がやっとわかった気がする。







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