流星滴る再興の法術師、アイドルになって過去を変えるべさ

凧揚げ

EP.1

「もしタイムマシーンがあったら、何をしたいですか?」

 いきなり喋られて、瞳をパチクリする私。「あれ? 目が見えない」どうやら黒い目隠しで何も見えない。

 私は冷静になり、周囲の気配を感じる。どうやら、体を椅子に縛られているみたいだ。

「もしもし…女、質問に……答えなさい」

 さっきから何だ、この機械音は? 耳障りだし、聞いていて不愉快。それに何だか蒸し暑い。まるで、サウナに入っているみたい。

「ふっ……言語が理解できないか。そんなわけがない」

 拡声器、スピーカーから流れているようで、音量もうるさい。「もう少し小さく喋れよ!」って、反抗したくなる。体もロープで縛られてるし、私を誰だと思ってるんだ。

「質問を変えよう、あなたの名前は?」

「今更かよ、私はな……」頭が働かなくなる。何でか知らんが、何も出てこない。それも考えれば、考えるほどに。

「あれ、私って誰だっけ?」

「待ってました」、と機械音が徐々に大きくなる。床が揺れているのか、地響きも凄い。そして、また一言。

「いってらっしゃい」


 ▽▲▽▲ NOW Struggle……


「舞台が整いました」

 私は赤色の横縞ドレスに銀色のヒールを履いていた。私は顔を手で叩いた。ファンが『どうした?』と心配そうに見つめている。

「みなさん、待たせたべさ」

 スタッフの指差し、出番だ。

御堂 流星みどう ながれだわ。よろしく頼むしょや」

 コンサート会場がはち切れんばかりの歓声が巻き起こる。

 ――なんも、私はスターだべさ。

 ニタニタ、笑みで顔が緩む。だが、妙に顔が痒い。

「ちょっと、邪魔すんなや!」

 私は顔を手で叩いた。ファンが「どうした?」と心配そうに見つめる。

「いい加減にしなさいだわ!」

 急にブラックアウト。瞳に光が入る途端に、視界に三毛猫が私を舐め回していた。


 ▽▲▽▲ NOW Struggle……

 

 ニャーん、襲撃注意。「わし夢から覚める」回避行動を取らねば、手をつくも猫には無理ゲーだ。もちろん、主人の考えることはお見通し。先回りしひたすら顔を舐める。

「やめろよ」

 ダボダボの黒い服、眼帯を携えた幼さの残る女の子。女の子は猫を抱え上げると、こちらに視線を向けた。

『ニャーん(見てたよ、御堂流星)』

 喧騒が嘘みたいに消えて、私と三毛猫を見つめ合った。

「アンタ、何か知ってんのかい?」

 爪を研ぎ、大きな欠伸をしながら猫は頷いた。眼帯の下の瞳が、妙に冷たい。

「スターなんて言葉、もう通じないよ。この先は、ほんとの“光”を持ってるかどうか、試されるんだから」

 三毛猫が再び「ニャー」と鳴いた。

 その声が合図のように、舞台の天井から光の粒が降り注ぐ。

 歓声ではなく、星空のざわめき。

「試すって、何さ……」

 私の声は震えていた。スター気取りの余裕なんか、一瞬で吹き飛んでしまった。

「ほら、始まるよ。――御堂流星の、ほんとのデビュー戦が」

 突然地面に亀裂が走る。村人は逃げることもできず、地中へ沈んでいく。そして、ひび割れた家が崩れ落ちた。

 眼帯の少女の服、髪、瞳も白く染まり、危険信号を発している。服は透き通り、見通す眼は氷のように冷たい。少女は言う。

「そろそろ戻るか、うん。私は法術師。全てを消し去り、再興する者」

 その言葉とともに、村人の世界は半壊し、意識はまた漆黒の淵へと吸い込まれる。

 ――私は再び闇の中で震えた。何もかもが遠くなる。だけど、胸の奥底に、まだ小さな灯が残っている。

「──私の“力”を見せてやる」

 地響きと光の余韻のなかで、私は拳を握る。名も記憶もあいまいでも、消せない何かが私を支えていた。光と闇の狭間で、私は、再び舞い降りる。

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