第3話──旅の始まりと魔女狩りの影


村を後にしたアリアは、険しい山道を越え、広大な大地を歩いていた。

風は涼しく、遠くに町の屋根が見える。

しかし、その穏やかな景色の裏で、彼女の胸には重苦しい現実が刻まれていた。


──魔女狩り。


ただ人を癒すだけの魔女でさえ、「異端」として捕らえられ、火刑に処される。

その業火は、アリアが生まれ育った魔女の里すらも焼き尽くした。

唯一残ったのは、掟を刻んだ古き石碑だけだった。


アリアは立ち止まり、空を仰いだ。

「……掟を守って隠れていれば、生き延びられたかもしれない。

 でも、それで救えぬ命があるなら……私は掟を破る。」


紫の瞳は揺らぐことなく、前を見据えていた。



町へ入ったその時、広場に立つ黒い十字架が目に飛び込んだ。

そこに縛り付けられた若い女は、苦悶の表情を浮かべ、体中から炎を吹き出していた。

周囲の鎖には呪印が刻まれ、彼女の魔力を強制的に発動させている。


「やめろ……! もう……これ以上……!」


女の声は哀願だったが、群衆は嘲笑した。


アリアの眉がひそめられる。

「……魔女狩りの十字架……。力を無理やり引き出し、命令に従わせる……卑劣な道具。」


十字架に囚われたのは、炎の魔女フレア。

赤い瞳が涙に濡れ、必死にアリアを見つめた。


「……あなた……逃げて……。関われば……同じ目に遭う……」


アリアは静かに首を振った。

「馬鹿ね。逃げていたら、誰も救えないでしょう。」


そして、群衆の前に歩み出た。

「この娘を解放しなさい。魔女の力は、あなたたちの玩具じゃない。」


その声は澄んでいて、広場を揺らした。

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