第3話

窓際の席で、カップに手を添えながら小氷がふと思い出すように言った。

「弥深。女性の人口が圧倒的に多いのって、科学的な理由もあるんだって。」


弥深が興味深げに顔を上げる。

「どういうこと?」


小氷は言葉を選ぶように、少し真剣な口調で続けた。

「性の固定が緩やかになったんだって。つまり、生まれたときの性別と、精神的な性別や恋愛の志向が必ずしも一致しなくなったってこと。」


弥深はカップを両手で包むようにして、静かに頷く。


「だから女性同士でもパートナーになれるし、技術的には子供も作れるようになった。それに比べて、男性同士は子宮がないから、どうしても子作りは難しい。だから自然と人口比は女性が多くなる傾向になったんだって。」


オーガニックレストランカフェの柔らかい光が、二人の表情を優しく照らす。小氷は少し間を置いて、静かに言った。

「私たちの存在を自然に受け入れる社会なんだと思う。」


弥深は微笑みながら、そっと小氷の手を握った。

「未来って、案外、悪くないかもね。」


窓の外では、光を反射する高層ビルと透明なチューブを滑るエアカーが、ゆったりと未来の都市のリズムを刻んでいる。オーガニックレストランカフェの中の静かな時間と、この世界の理屈が、二人に安心と自由をそっと与えていた。

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