第1話

西暦2758年の東京。空中を縦横無尽に走る透明なチューブの中、光るエアカーが滑るように移動していた。春日井小氷と春日井弥深――双子の姉妹は、その中を走る電車に揺られながら、肩を並べて座っている。窓の外には未来都市の光景が広がり、高層ビル群の間を空飛ぶ広告や光の帯が行き交う。


「ねえ、小氷、昔だったら私たち、恋愛とかしてたら怒られてたのかな?」

弥深が、少し照れたように声を落とす。


小氷は軽く笑った。

「たぶんね。今、みたいに血縁リスクカット技術がなかったら、医療的にも倫理的にも絶対に認められなかったと思う。

それに、2500年くらいからは、人間のDNAそのものが変化したんだ。

変異性変質変形遺伝子っていう新しい遺伝子が発現して、受容性原形体非保存遺伝子が活性化する。

それが、同位体保存の概念の拡張(An Extension of the Principle of Isotopic Conservation)って呼ばれてる。

近親交配に対するリスクや倫理観の考え方が根本から変わったんだよ。

もう、ほとんどノーリスクで遺伝の交換ができる。

だから今は平気。科学が保証してるし、社会もそれを認めてる。」


「……不思議」

弥深は手元の小型端末を弄りながら、ふと小氷の手を握った。触れるだけで、心臓が少し跳ねる。二人とも、隣にいるだけで安心感と特別感を同時に感じていた。


「でも、こうして手をつないでると、やっぱりちょっとドキドキするね」

小氷は頷きながら、外の未来都市を眺める。「昔の人たちは、私たちみたいに恋愛できなかったんだろうな。でも私たちは自由。好きでいられるって、やっぱりいいね」


エアカーは静かに加速し、透明なチューブの中で光の線を引きながら滑っていく。姉妹の間の沈黙は、互いの存在を確かめる静かな時間だった。未来の科学が可能にした安全と自由が、二人だけの特別な日常を包んでいる。


「?」

「うん?」


小氷と弥深は手を握り合ったまま、未来都市を眺め続ける。科学が解決した問題の向こうに、二人の小さな秘密の時間が静かに流れていた。

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