25時の声泥棒

我孫子発

25時の声泥棒

自宅アパートの一室。


せっかくの金曜日なのに暴風雨でレイナ達との飲み会は中止


その上停電になってしまった


真っ暗な中、時間もわからない


スマホは充電切れ。唯一の光源は、机の上に置かれた短い蝋燭だけ。ぽぽぽっと小さく揺れている


外はまだびゅーーー、びゅーーーと風が吹いてるようだ




暇だ。暴風雨が気になって落ち着かない。


スマホが切れる前に探し出した防災用のポケットラジオをつけた


ダイヤルを回してできるだけノイズの少ない局を選ぶ



「……こんばんは。今夜も、あなたの声をお届けします。」


リスナーからのメールを読む投稿系の番組だろうか


フレンチポップ風の明るいBGMが聴こえる


「それでは本日最初の声です。どうぞ」


ザザ…


『…蝋燭が消える前に、鏡を見て。』




自分の声だった。


ノイズ混じりだがわかる。ゾワッとする。確実に自分の声だ


『早く 急いで』


部屋の隅にある姿見に目を向ける。

そこには、自分の姿が映っている、

筈だった。


鏡の中の“自分”は、微笑みながら手を振っていた。

もちろん私は私は動いていないし笑ってもいない



風の音が静かになって


蝋燭の火が、ふっと消えた。


部屋は真っ暗で何も見えない


 

「それでは次の声です、ペンネームは…」

明るいBGMと共に番組が進行していく中


ノイズ混じりの声がささやく


『間に合った…間に合った…』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

25時の声泥棒 我孫子発 @tiisaki-sumire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ