山田が女子のリコーダー舐めてんだけど…

たんちょ

山田が女子のリコーダー舐めてんだけど…

 人生がつまらないという事に気づいたのはつい昨日のことだ。


帰宅途中の俺の頭の中に「つまらない」という文字が浮かんできたのである。




毎日毎日同じことの繰り返し。


飯を食って、学校行って、スマホ触って、寝るだけ。


なんの代わり映えもない、どこにでもある日常。




そんな日々に俺は絶望してしまった。




いや、流石に絶望は言い過ぎてしまったかもしれない。




別に多額の借金を背負ってるわけでもないし、犯罪を犯したわけでもない。


明日の食に困ってひもじい思いをしたことも、生まれてこの方一度もない。


きっと、世の中には俺よりも不幸な人間が何十億人といるのだろう。






それでも、俺の心の中は真冬のように冷たくなっていた。






- - - -






 数学の教科書を忘れたのは、家に帰ってすぐ気づいた。


もしやと思いリュックを確認すると、案の定、数学の教科書だけが見当たらなかったのである。


家で課題をチャチャッと終わらせるつもりだったのだが、どうやら学校に置いてきてしまったらしい。


あっつい日差しの中をやっとの思いで帰ったのに、また外にでるだなんて。


考えただけでも恐ろしい。




「はぁぁ…」




家のドアを開けると、ムアァとした嫌な空気が中に入ってきた。


空はいつの間にかオレンジ色に染まっており、遠くの方からひぐらしの鳴き声が聞こえてくる。


俺は額から流れる汗を拭い、重たい足取りで夕暮れの町を歩いていった。






- - - -






 学校にたどり着くと、そこには異様な光景が広がっていた。


いつもなら陸上部で埋め尽くされている校庭に、今日は誰もいない。


それどころか帰宅する生徒の姿すら見当たらないのである。




「えっ…誰もいねぇじゃん……」




一人ぼっちの校舎は思いの外に気味が悪く、どこか心細い。


今にも物陰から”ナニカ”が飛び出してきそうだ。






しばらく校庭を眺めていると、ひとつ大切なことを思い出した。




「あぁそうだ…」


すっかり忘れてしまっていた。


今日からテスト週間だった。




道理で誰もいないわけだ






- - - -






玄関にも人の姿は一切見当たらず、聞こえてくるのは俺の足音だけ。


恐る恐る2‐Aの下駄箱に行くと、誰かの靴が脱ぎ捨てられていた。




「誰かいんじゃん…」




今この場でクラスメイトと出くわせば、気まずすぎて死んでしまう。




(どうしよう……)




身をかがめ下駄箱を慎重に一つ一つ覗いていく。


そうしていくと、一箇所、上履きの入っていないところを見つけた。




どうやら靴の持ち主は山田のようだ。




「あいつなにしてんだ?」




駆け足気味に、二階の2‐A教室に向かう。






「山田ぁぁぁ」




教室のドアを開ける。




そこには山田がいた。


椅子に座り、リコーダーをくわえている。




「お前、テスト期間中にリコーダーの練習かよw…」






と、その時、


妙な違和感に気がついた。




山田の席は廊下側のはず。


しかし、今山田が座っているのは教室の中央付近。


ここは確か…






笹原さんの席だ。






机の上に目を向ける。


そこにリコーダーを入れる袋が転がっていた。


袋には’’笹原’’と書かれている。




主人公「えっ…」




山田「…」




山田はリコーダーをゆっくりと机の上に置き、小さく口を開ける。






山田「………………誰にも言わないでくれ……」






「きしょい」とは流石に口にはしなかったが生理的嫌悪が体中を駆け巡る。




「えっ、ちょ、ちょっと…えっと…えぇぇぇ…」




テンパって言葉が浮かばない。




「えぇぇぇぇぇぇ………きっかけは?」




山田「えっ?」


なにいってんだこいつ?という目で山田が見てくる




主人公「いや…笹原さんのこと好きになった…」




山田「あっ、そういう…」


山田は目線を上にそらし、しばらくの間考え込む。


5秒ほど経ち、山田は俺の目を見つめ、はっきりとした口調でこう答えた。




山田「俺さぁ、貧乳の娘こが好きなんだよね」




主人公「きっしょ」




流石に引いた。


もうちょっと言い方ってもんがあるだろ。


百歩譲って’’顔がタイプだった’’ならまだわかるが、貧乳の娘こって。




あまりの気持ち悪さに冷静さを取り戻した俺は、隣の席に大股を開いて腰掛けた。




主人公「お前なぁ」




もうどこから突っ込んでいいかわからない。


どうしてリコーダーを舐めた?


なぜ貧乳好きをカミングアウトするのにそんなドヤ顔をする必要がある?


というか貧乳好きってなんだよッ!!




主人公「貧乳って……もっとなんか、きっかけなかったのかよ。消しゴム取ろうとしたときに手と手が触れて、みたいな」




山田「お前アニメの見過ぎだって。現実ってのはそんな甘ったるくねぇのよ」


山田はティッシュでリコーダーの吹き口を洗いながらそう言った。




なんだこいつ。




主人公「じゃあなんだよ、お前は笹原さんがまな板だからって理由でリコーダーをネプネプしたのかよ。」




山田「お前も男なら分かるだろ、この気持ちッ」




主人公「分かってたまるかよ!…ていうか…そんなに笹原さんのこと好きなら告白したらいいんじゃねえの?」




山田「はぁ…お前なぁ…」


山田が哀れそうな目で俺を見つめてくる。




主人公「なんだよ…」




山田「お前ってやつは本当に男心を分かってねぇ…」




山田は一呼吸おき、力のこもった声で俺に語りかけてきた。






山田「リコーダー舐めるようなやつに、告白する勇気があるわけ無いだろッ」






主人公「……たしかに…………………」






 聞きたいことは山々だったが、今日のところはひとまず切り上げた。


あのまま山田と教室にいると気が狂いそうだったし、俺の身にも危険が及びそうだったからな。


俺は数学の教科書を回収し、なんとなく山田と帰ることにした。




外に出ると太陽は山に隠れており、ひぐらしの声も聞こえなくなっていた。




いつもと同じ帰り道。


普段の山田なら、くだらない話題を吹っ掛けてくるのだが、今日は珍しく一言も発さない。


妙に元気がなさげで、ふらふらとしている。




山田「ちょっとトイレ…」


そういうと、山田は最寄りのコンビニに一目散に駆け込んでいった。




主人公「変なの」






5分ほどして、山田がコンビニから出てきた。


片手にはレジ袋が握られている。




山田「おまたせ」


山田は無表情で呟く。




主人公「遅えじゃん」




俺がそう言うと山田は「ごめんごめん」と小さく頭を下げた。




山田「これやる」


山田は俺にレジ袋を差し出す。




主人公「なにこれ?」


袋の中を確認すると、堅あげポテトBIGが入っていた。




山田「それ口止め料なっ」




主人公「口止め料?」




山田「それやるから、さっきのことは誰にも言うなよ」




主人公「あぁ、そゆこと。ほいほい」






この会話以降、山田はまた黙り込んでしまった。


気まずい空気が流れ続ける。


山田と一緒にいてこんなに死にそうな思いは初めてだ。


俺はなにか話題を振るわけでもなく、なんとなく暗くなっていく空を見上げていた。




10分ほど経ち、やっと山田と別れる曲がり角にたどり着いた。




主人公「じゃあな、山田」


俺は山田に手を上げる。




その時、山田は眉間にシワを寄せ、俺に指差した。


山田「誰にも言うんじゃねぇぞッ、堅あげ奢ったんだからなッ」




主人公「はいはい…」




俺は山田からもらった堅あげポテトBIG(税込¥394)を天に高く掲げ、山田と別れていった。






− − − −






しばらく一人で歩いていると、山田の今までの奇行が走馬灯のように溢れてきた。


そうだ。山田はもとから変なやつだった。


LINEのアイコンは真っ黒だし、この前一緒にゲームセンターに行ったときは面白そうという理由だけで、女児向けのアイドルゲームを楽しそうにプレイしていた。


いつか何かやらかすと思っていたが、まさかクラスの女子のリコーダーを舐めるとは。


思い出にふけりながら歩いていくと、一つの家が目についた。




主人公「あっ」




その家の表札には笹原と書かれている。


二階の窓を見ると、カーテン越しに明かりがついていることがわかった。




「笹原さん…」




笹原さんは、さっきの事件のことなんか知らず、今も部屋でもくもくと小説を読んでいるのだろう。


なんだか申し訳なくなってくる。




「ごめんなさい笹原さん、俺にはヤツを止められそうにありません…」




俺は妙な後ろめたさを胸に秘め、笹原さんの家をあとにした。






− − − −






「ふぅぅ、食った食った」




夕飯を食べ終わり、俺は部屋のベッドに転がりこんだ。


カレーっていうのは不思議なものでどれだけ食べても食欲を注いでくる。


お陰で俺の腹は、今にも破裂しそうだ。


何度か寝返りをうち、大きなあくびを一つする。




ふと視線を机の上に向けると、俺の目に堅あげポテトbigが飛び込んできた。




カレー二杯を食べきり満腹だったのに、お菓子の袋を目にすると不思議と手が伸びてしまう。




堅揚げポテトの両端をつまんで一気に引き開ける。




すると芋と油の香ばしい香りが部屋中を覆っていった。




「ん〜〜、やめときゃよかった…」






ポテトをバリボリと貪りながらスマホを開き、Googleで(リコーダー 舐める 犯罪)と検索する。


適当に上から二番目の動画をクリックしてみると、胡散臭いスーツ姿の男が画面上に現れた。




男「リコーダーを舐めるのは器物損壊罪が該当します!!しかし、14歳未満なら責任能力が否定されているため中2までなら犯罪にはなりませんっ!!」




主人公「まじかよ。中2最強だな」




そうしてスマホを触り続け、夜は更けていき、俺は結局数学の課題に手を付けなかった。




まぁ今日はあんな事があったんだ。




仕方ないよな。






−−−−






次の日、山田はいつものように登校してきた。


いつものように教室のドアを開け、いつものようにリュックを起き、いつものように椅子に座る。かと思ったが、山田は椅子には座らず俺に向かってきた。




主人公「ん? やま…」




山田「お前昨日のこと誰にも言ってないよなッ!!」


山田がグッと顔を近づけてくる。




主人公「言う訳ねぇよ」




山田「昨日堅揚げ奢ったんだからなッ」




あさっぱらからなんだよと思ったらそのことか。


主人公「はいはい…」




「昨日のことを黙ってやる金額が堅揚げの約400円って少なくね?ほぼ犯罪だぜ?」


と言ってやりたかったが流石に言わなかった。




山田がちらりと視線を逸らす。


なんだ?と思い目線を追いかけると、その先には笹原さんがいた。


笹原さんはいつものように小説を淡々と読んでいる。




チャイムが鳴り、山田は俺にメンチを切りながら自分の席に帰っていった。




主人公「えぇぇぇぇ」






 ホームルーム中、山田の様子を後ろから観察していたら面白いほどに笹原さんのことを見ていることに気づいた。


俺が数えたところ、一分間のうちに4回は笹原さんのことをチラ見している。


普通ならその純情な恋心を応援してやりたいところ。だが、昨日の”アレ”を見てしまっては、今の山田の行動は、獲物の様子をうかがうバケモノにしか見えない。




「あっそういや…」




ファイルの中に挟んでおいた授業予定表を確認する。




「えっと今日は金曜…あっ」


すっかり忘れていた。


今日の二時間目は






「音楽じゃん…」






− − − −






そんなこんなで一時間目は10分20分…と過ぎていき、




「キーンコーンカーンコーン…」




さっそうと授業は終わっていった。




ふと廊下の方を向くと、山田と目が合った。


事態の深刻さに気づいてか、山田の顔は引きつっており、眉間にシワを寄せ、謎に口角を上げている。




主人公「どういう感情…」






 いつも通り山田と一緒に三階の音楽室に向かう。


普段の山田なら、くだらない話題を吹っ掛けてくるのだが、昨日に引き続き今日も会話は全くなし。


山田の方に目を向けると、頭をあっちに向け、こっちに向け落ち着きのない様子だ。




主人公「はぁ……」




なにをそんなに気にしているのか聞いてみたい気もするが、そんなことをすれば山田に何をされるか分かったものじゃない。殴られ蹴られ、挙句の果てに俺のリコーダーまで舐められてしまいそうだ。


俺は山田と一定の距離をおき、あまり刺激しないようにした。


触らぬ神に祟りなしだ。






−−−−






「キーンコーンカーンコーン」




女生徒「起立、気をつけ、礼、」


生徒達「よろしくお願いします」




先生「よろしくお願いします。じゃみなさん前に集まって”風になる’’やりますよ」




そんな俺の思いとは裏腹に、授業はいつも通り始まってしまった。




先生「出だし大切だからねぇ、最初の音しっかり〜」




生徒達「はーーーい」




合唱の間も山田は挙動不審であり、手は忙しなく動き、体は小刻みに揺れている。そんな異変に気付いてかクラスメイト数名が山田に視線を飛ばしていた。


反応も人それぞれで、ニヤニヤと面白がっていたり、化物を見ているかのような表情だったりと個性豊かだ。


そんなクラスメイトの様子を見ているうちに時間は過ぎていき、いつの間にか15分が過ぎていた。




先生「じゃあ皆さん戻ってぇ」




先生の一言で、俺たちはズラズラと机に戻っていく。


歩いている途中で俺は「あっ」と小さな呟いた。


山田の動きが面白くて忘れてしまっていた。




合唱の次は…




リコーダーだ。






先生「じゃあリコーダー準備してぇ〜」


みんなが一斉にリコーダーを取り出していく。




恐る恐る、教室の中央付近に目をやると、




笹原さんがリコーダー入れのファスナーに手を掛けていた。




ゆっくりとチャックを開け、袋の中からリコーダーを取り出す。




俺の鼓動は高鳴り、口元が自然とニヤけてしまう。




笹原さんのほんのり赤らんだ唇が、吹き口に近づいていく。




先生「じゃあ皆さん、ドレミから行きますよぉ、さん~はいっ」






生徒達「ド~レ~ミ~ファ~ソ~ラ~シ~ド~」






自然と山田と目が合う。


山田は口を開けたまま、放心状態になっていた。






- - - -






そんなこんなで慌ただしかった1日が終わっていき、学校は放課後を迎えた。




教室「ざわざわ」




主人公「山田、帰ろぉぉ」




山田「えっ、あぁぁ、うん…」




主人公「…大丈夫?」




山田「いや…その…なんというか…………やっぱ、なんでもない」




山田は目を泳がせ、ソワソワしている。




なんだろう。


嫌な予感がする。




俺は勇気を振り絞って山田に問いかけた。




主人公「お前…まさか…………また舐めるつもりなのか?」




山田「バッカッ!お前声でかいって!!するわけないだろッ!!!」




今までの様子が嘘かのように山田は荒々しい声を上げる。




主人公「でも二度あることは三度あるって…」




山田「俺はまだ一回しかしてねえぇぇよ!!」




山田の暴走に気づいてか担任の西山先生が近づいてくる。




先生「お前らぁぁ、テスト週間なんだからさっさと帰って勉強しろぉぉ」




主人公「は〜〜〜い」




先生はそう言うと肩に手を当てながら教室を出ていった。




そうだ。いろんなことが起こりすぎて忘れていたが今はテスト週間なのだ。


学生にとって大切なときに、俺達はいったい何をしてるんだ…




ふと気になり、俺は山田の勉強具合を探ってみることにした。




主人公「山田はテス勉してる?」




山田はリュックの中に教科書をしまいながら「そりゃぁな」と無表情に呟いた。




主人公「まじかぁぁ」


「リコーダー舐めるようなやつがテス勉するなよっ!!」と俺は心のなかで叫んだ。






−−−−






次の日の土曜日、俺は朝からアニメを見ていた。


真面目にテスト勉強をしようかとも考えたが、まぁ、まだテストまで日にちはたっぷりあるわけで、まだまだ焦るような時ではない。




そんなわけで俺は一週間、溜まりに溜まったアニメを半日のうちに消化していった。






薄暗い部屋でテレビだけが輝き、俺の眼光を照らしている。


聞こえてくるのはアニメの音だけ。


俺はソファーに横になり、だらだらとアニメを見ていた。










レン「このままで良いはずないだろっ!!アリーシア!!俺と一緒に行こう!」


レンが力強く、手を差し伸べる。






 




そのシーンを見て、なぜだか心が震えた。


身を起こして、前のめりになり画面に食いつく。










アリーシア「うんっ、私、レンとならどこまでも行ける気がする!!」


ヒロインは手を取り、そして二人は眩しい光のなかに駆け出していく。


そうしてアニメは終わりを迎え、エンドロールの画面に移り変わった。










主人公「ふぅぅ……………コンビに行くかぁ」




ドアを開けると、空一面を黒い雲が覆っていた。


荒々しい風が吹き、通りの木々がざわめいている。




しばらく歩いていくと、笹原さんの家が見えてきた。


普段なら素通りしていくところだが、あの事件以降、なんだか笹原さんの家の前を通るたびに意識してしまう。


笹原さんの家をチラ見ていると、玄関に’’赤いラインのかかった上履き’’が干されていることに気がついた。




主人公「こんな天気に?というか笹原さん上履き洗うんだ…」




そんな小さな疑問を胸に秘め、俺は笹原さんの家をあとにした。






− − − −






 そんなこんなで楽しい楽しい休日はあっという間に過ぎていき、また憂鬱な月曜日が始まった。


あのあと知ったのだが、今台風が接近しており、月曜に直撃する予報らしい。




休校するかもと淡い期待を抱いていたが、朝になっても学校から連絡はなかった。






− − − −






 大雨の中、なんとか学校につく。


いつものように教室の扉を開くと、妙な空気が立ち込めていた。


普段なら鬱蒼とした雰囲気が漂っている教室が、今日はやけに騒がしい。


みんな興奮気味でいつもよりワントーン高い声で話している。


 


 教室の中央に目をやるとそこには笹原さんがいた。


笹原さんはクラスの空気に飲まれることなく、いつも通り小説を読みふけっている。


俺はそんな笹原さんの様子を横目で見ながら、いつものように席についた。






外の様子はどんどん悪くなっていき、風が出始めている。




しばらく笹原さんの後ろ姿を見つめていると、遠くの方の空がチカッと光った。


なんだ?と思った瞬間、けたたましい雷鳴が学校全体を襲う。


突然の出来事に俺含めたクラス全員が窓の外に視線を向けた。




女子生徒①「キャーーーッ!!」


男子生徒②「怖っw」


女子生徒③「だいぶ近くなかった?」




教室が一瞬でざわめきはじめる。




(笹原さんも驚いてるかな?)




少し気になり、笹原さんの方を見ると…










笹原さんと目が合った。










心臓が飛び出る。




ゾクゾクする。




電流が走る。










笹原さんはすぐに目をそらし、また小説を読み始めた。






俺がしばらくフリーズしていると、教室のドアがガラガラと開いた。


そこには全身ずぶ濡れの山田がいた。




主人公「…………」




山田はいつものようにリュックを置き、いつものように椅子に座った。






− − − −






 テスト週間ということもあり、授業はほとんど自主勉強。


その間も雨風は、荒れたり収まったりを繰り返している。


校庭は水浸しで、でっかい池のようだ。


俺は適当に時間を潰しながら授業をやり過ごし、いつしか昼休みになっていた。






昼飯を食べようと、弁当袋を取り出したとき、西山先生が教室に入ってきた。




先生「みんなぁぁ、聞いてぇぇ」




その一言でクラスの全員が先生の方に目線を向ける。




俺はその一言で確信した。


これは間違いない…










先生「昼から休校になりました。これから台風強くなっていくらしいから今のうちに帰ってぇ」










少しの間、教室は静寂に包まる。






そして次の瞬間、


歓喜の声が溢れかえった。




女子生徒①「えっ!マオッ!!今の聞いたっ!!」


男子生徒①「まじかよぉぉw」


女子生徒②「最高じゃん」




先生「はいはいみんな静かにぃぃ、帰れるやつは今すぐ帰ってよしっ、親御さんの迎え待つなら教室か図書室でお願いしまぁぁす。じゃあそういうことで、解散っ!!あぁあとテスト週間なんだから勉強しろよぉぉ」




先生はそう言うと軽い足取りで教室をあとにした。




それからの教室は絶叫状態。


みんな狂ったかのように、騒ぎまくっている。




友達とキャッキャする女子。


「じゃあ俺んち来るw?」と馬鹿騒ぎをする陽キャ。


一目散にリュックを背負い帰っていく男子生徒。




俺は浮き足立ちながら、山田のところへと向かった。




主人公「山田ッ!帰ろッ!!」


俺がそう言うと山田は課題のプリントを机に取り出した。




山田「俺、これだけ終わらせるわ」






主人公「…………まじかよ」








なんとなく教室を見渡してみると、笹原さんはいつの間にかいなくなっていた。






− − − −






 俺が山田を待っている間、クラスメイトたちは一人また一人といなくなっていった。


今教室にいるのは俺と山田の他に、男女それぞれ一人づつ。




俺がスマホを20分ほど触っていると後ろから「おい、終わったぞ」と声がした。


振り返るとそこには山田がいた。






山田「便所いくから先行っといて」




主人公「ほ〜い」




 ひとりさみしく廊下を歩いていく。


いつもなら生徒や先生が行き来しているはずの廊下に今日は誰もいない。




「……」




階段を降りていき、玄関に向かっていく。




一人の校舎はやっぱり気味が悪く、どこか心細い。


今にも物陰から”ナニカ”が飛び出してきそうだ。






玄関にも人の姿は一切見当たらない。


聞こえてくるのは荒々しい雨と風の音だけ。


しばらく外の様子を見ていると、先程よりも風が出てきたらしく、校庭の木々が狂ったようにうごめいている。






そんな調子で、外を見ながら時間を潰していたが、どれだけ経っても山田はやってこない。


しびれを切らした俺は一人で帰ってやろうと、2‐Aの下駄箱に向かった。




自分の靴をとり出そうとした、




その時、




ふと視線を上に向けると、


俺の目に’’赤いラインのかかった上履き’’が飛び込んできた。


下駄箱には’’笹原’’と書かれている。






なぜだろう。




不思議と手が伸びていく。






上履きを掴み、




そのまま鼻に近づけていく。


と同時に洗剤の香りが漂ってきた。










「………………………」










二階の方からダッダッダッダという足音が聞こえてきた。


慌てて上履きを戻し、周りをキョロキョロと見渡す。






山田「おまたせ」


そこには無表情の山田がいた。




主人公「………おまえ遅えじゃん、もう外、大荒れだぜ」




俺がそう言うと山田は「ごめんごめん」と小さく頭を下げた。




主人公「じゃあ行くか…」




俺は妙な罪悪感と高揚感を胸に秘め、学校をあとにした。

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