いたい

日本語読めない

 あの蒸し暑い夏の日。

 わたしはわたしを殺した。いつからだろうか、好きだったあの人の手の感触を忘れてしまっていた。いや、ただ忘れようとしていただけかもしれない。思い出に触れてしまったらまた戻りたくなって会いたくなって、自分が壊れてしまうから。そう、気づいてしまうのが怖かった。綺麗な思い出のままあなたの記憶から私が消えればそれでよかった。

 

 

 眠たい眼をこすって重たい体を起こす。じりじりと照り付ける太陽は母の怒号に似ていてうっとうしかった。高校を卒業後、埼玉のゴルフ場に就職した。これといってしたいこともなかったし、専門に行くのにもお金がかかるし、まぁそんな感じだった。重くのしかかる同情とか期待とか全部いらなかった。一人になれば自由になれると思っていた。そう思い込んでいた。

 そっと、聞きたくもないニュースが私の耳に飛び込んできた。彼と一緒に聞いていたバンドのボーカルが死んだ。自殺だった。何かがぷつんと途切れる音がして何も聞こえなくなった。この時の感情はとても気持ち悪くて生ぬるくて、暖かかった。でも、すこし安心してしまった。

 死に方が違えば二度と会うことはないってそう誰かが言っていた。会いたくなったらその時は私も死のうっておもってしまった。こんなこと彼に言ったら怒られるんだろうなって少しおかしかった。

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