平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影

浅野じゅんぺい

平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影

「それ、勝手な解釈じゃない?」

口が勝手に動いた。

梨花の瞳がわずかに揺れ、沈黙のあと、雨音だけが残る。


「……そういうとこ、ほんと無理」

ぽつりと落ちた言葉に、胸の奥がざらついた。

わかっているのに、またやってしまった。やめたいのに、止められない。



振り返れば、梨花はいつも折れていた。

観たかった映画も、入りたかったカフェも、彼女の予定は俺に合わせて消えた。

その優しさに苛立ち、嫉妬に似た感情が胸をざわつかせる。

「俺だったら、絶対できないのに」


──あの日。仕事でドタキャンした夜、梨花はコンビニのショートケーキを差し出した。

「せっかくだから、二人で食べようよ」

笑いながら伏せた瞳の奥に、微かな寂しさがあった。

優しさが、憎らしいほどまぶしく見えた。



仕事に追われ、寝不足で返信もできない日々。

焦りと劣等感が重くのしかかる。

それでも梨花は小さな歩幅で必死に合わせてくれた。

心を折りたたんで、それでも俺の隣にいた。

彼女の強さが、時に俺を惨めにする。



赤信号の前。梨花が濡れた前髪を耳にかけた。

「ねえ……もう、私……限界」

その言葉に、胸が締めつけられる。

赤い光が、俺の未熟さを暴くように滲んだ。


「無理に合わせなくていい。お前はお前のままでいい。俺は、それでも一緒にいたい」

震える声が、夜気に溶けた。

梨花の肩が揺れ、雨粒の中で微かに笑った。

その表情が、焼きつくほど綺麗だった。



信号が青に変わる。二人で歩き出す。

肩に落ちる雨は冷たく、靴の中まで染み込む。

歩幅は揃うが、心の距離はまだ少し残る。


足元の水たまりに映る影が揺れた。

形は近づいても、完全には交わらない。

それでも並んで揺れながら、夜の雨に溶けていく。


──不器用な俺たちの平行線は、

たぶん今も、同じ方向を向いている。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影 浅野じゅんぺい @junpeynovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る