高級寿司屋のかっぱ巻
五來 小真
高級寿司屋のかっぱ巻
「何にぎりましょう?」
寿司屋の大将は、静かにそう言った。
「えーっと……」
「何でも食えよ」
部長はそう言うが、壁に貼られたメニューは、全て値段が時価。
どれほどのものかも見当すらつかない。
「―カッパ巻きを」
「——お、それをいくのか」
悩んだ末の決定だった。
カッパ巻きならそう高くはないだろうし、違いがあったとするなら面白い。
「あいよ」
出てきたカッパ巻きは皿が逆に置かれ、その上に居心地悪そうに一貫鎮座していた。
これは、『帰れこのクソ客』的な意味じゃないよね?
不安になって大将を見る。
大将は人の良さそうな顔で微笑んだ。
「まだやってたんだなぁ」
「ええ、なんとかね」
部長と大将が話している内に、お皿を戻そうとする。
——が、部長に制止される。
「お前、それはいかんぞ。大将の粋な心意気を……」
部長と真顔で対面する。
どこが粋なのか考えるが、 部長の迫力に押されまともな思考がままならなかった。
ひっくり返そうとする手を離し、とりあえずいただくことにしよう。
外観を眺めると、意外ときゅうりが小さいようで中に潜り込んでいるようだった。
シャリに赤い色が付いていた。
——そうか、梅も入ってるのか。
それは良いマッチングだ。
一口頬張ると、ゼラチン質の歯ざわり。
妙な味だった。
「大将、これ……」
腐ってんじゃないの? と言おうとして思いとどまる。
これが上質なきゅうりの味なのか——?
うーん……。
「それにしても今回のは分厚い皿だねぇ。本体も大きかったのかい?」
「いえ、意外にちっさい奴でね——」
部長はかっぱ巻きの皿を手に取り、大将と話しだした。
おそるおそるかっぱ巻きの海苔を解こうとすると、部長にまたもや制止された。
「それは無作法だろう」
仕方なくそのまま口に入れたかっぱ巻きは、やはりきゅうりではないような気がした。
そして梅の味がどこにもないことに、今更ながら気付いた。
<了>
高級寿司屋のかっぱ巻 五來 小真 @doug-bobson
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