第3話 諦めない母たち

狭い路地を、一台の車がゆるゆると走っていた。

 運転席には、つばさ。助手席には千鶴が乗っている。


「……つばさ……行く宛があるの?」

 千鶴は震える手をぎゅっと押さえ込みながら、顔を伏せたまま訊ねた。


「……ないよ。あるわけないじゃない。でも――」

 つばさは唇を噛みしめ、ハンドルを強く握り直す。

「身体の不自由なふたりが、そんなに遠くまで行けるはずがない。この辺を虱潰しに探せば、きっと何処かに居るわ!」


彼女は、路地から路地へ、どんなに狭い道でも構わずに車を走らせた。

 海に近づくにつれて、街灯の数が目に見えて減っていく。視界は暗く、車のヘッドライトだけが道を照らしていた。

「きっと見つかる」

 つばさの瞳は、信じる者のそれだった。

「覚えてるでしょ? 中学校の屋上でのこと。愛里には……秀ちゃんの居場所が分かるのよ。きっと、追いついてる。一緒に居るはずよ」


その言葉に、千鶴もゆっくりと顔を上げる。


「……そうね……そうよね! 愛里が見つけてるわよね!」


「うん!」


そのときだった。

 車の横を、一人の人影が通り抜けた。


「……っ!」

 千鶴が窓を開け身を乗り出した。


「あの! すみません、ちょっと待ってもらえますか?」


声をかけられて、驚いたように振り返ったのは――神崎亜弓だった。

「どうしたの、千鶴?」

 つばさがブレーキを踏み、車を停める。


千鶴は勢いよくドアを開け、亜弓の元へ駆け寄った。


「あの…その義足……どこで?」


一瞬、亜弓の顔に戸惑いが走る。しかし、すぐに真摯な口調で答えた。


「さっき、私の連れが転倒させてしまって。壊れてしまったので、直してもらおうと預かったんです」


その言葉に、千鶴の目が大きく見開かれる。


「そ……その倒れた人は、女の子じゃないですか? 髪の長い!」


「えっ……そ、そうです! 月島愛里さんって言います」


「……ああっ!」

 千鶴は両手で口元を覆い、叫び出したい衝動をなんとか堪える。

「その子は、今どこにいるの?」

 つばさが車の中から落ち着いた声で訊ねる。


「海に向かいました。探してる人がいるって……私の連れが自転車に乗せて、そっちに……あの、もしかして……お母さんですか?」

「はい!!」

 二人は声を揃えて、即座に答えた。

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