第3話 幸運は脅しの道具
「まさか断らないよね?」
そう、いたずらをする子供のように無邪気に笑うメイ。純粋な子供にしか見えない彼女のほほえみは最初に見た時と何かが違った。
「もちろん俺が言い出したことだ。断りはしないが、どうやって度胸を試そうってんだ?」
「ちょっとしたゲームだよ、私の毎朝のルーティーン。度胸をつけるための......ね?」
そう言ってまたニコリとほほ笑む。今度は物理的に違和感を感じた。なんというか自分の背中のほうに違和感があるのだ。
「で?内容は?」
彼も何かに感づいているのだろう、少し警戒しているかのように質問をした。相手が提示してくる、しかも毎朝のルーティーンにしているようなことで相手をするというのなら完全に相手有利の勝負になるだろう。まぁ熟練の冒険者と登録前のビギナーの勝負なのだからそのくらいのハンデは背負おうということなのだろうか。
___ゴトン
少し重い音を立ててメイが得物であろう銃をカウンターに置いた。
「簡単だよ、難しいルールは何もない。銃に一発だけ弾を入れてシリンダーを回して、こめかみにむかって引き金を1回ずつ引く。アタリを引くか降参を宣言したら負けっていうだけ」
「.....ふむ、なるほど。確かに訓練弾なら死ぬことはないかもしれないが、こめかみに当たれば場合によっては後遺症が残るかもしれない程度には危険だ。いいのか?お前と俺じゃ体のつくり的に危険度が段違いだ」
「それについては心配ないよー.....だって_____」
そう言いながらまたもニコリとほほ笑んで口を開く。それと同時にまた背中に違和感。そして気づく。あぁ、そうか、これは_____
「_____実弾を使えば、危険度なんて変わらない。でしょう?」
____恐怖だ。
彼女から感じる闇とも光とも違う、底の知れない何かに恐怖しているのだ、私は。
「馬鹿言うんじゃねぇ!!!実弾だと?!俺ですらそんなもんこめかみに食らったら頭が吹き飛ぶ!!!こんなことに命かけてんじゃねぇ!!!!俺の話聞いてなかったのか!!!」
たまらず叫ぶリッケス。しかし、その怒号なぞどこ吹く風と反論するメイ。
「言ったよね?「アタリを引くか降参を宣言したら負け」って。訓練弾がアタるかもしれないだけで「参った」なんて言わないでしょう?それじゃあアタリを引くかどうかの運を試すだけになる。度胸比べはどこに行ったの?」
「そ、そうは言うが......しかし.....」
そう言って口ごもるリッケスを見て、クスリと笑うメイ。
「じゃあ、「参りました」、ですか?」
「違う!もっと____」
「____別の方法で。ですか?」
リッケスの言葉を先取りするように遮りながら、カウンターに置いた銃を手に取ってシリンダーを開き、ゆっくり丁寧に1発ずつ弾を抜き、コトリ...コトリ....とカウンターに並べていく。
「それって、リッケスさんが「参った」って言ったのと何が違うの?」
....コトリ。5発目の弾丸をカウンターに置く。そしてシリンダーをカラララ___と回し、適当なタイミングでカシャンッとしまう。流れるような動作だった。本当に毎朝こんなことをしているような......
「私は「参った」なんて、言わない」
撃鉄を起こしながらそう言って煽るように首をかしげた先には、彼女の得物が黒く、小さな口を開けていた。止められなかった。メイの流れるような動作にある種、魅入られてしまっていたのかもしれない。
「だって私の心は、全く参ってなんかないんだから」
_____カチリ
引き金を引く音の後、受付には痛いほどの静寂だけが広がった。
「ハズレでしたねー。次、リッケスさんの番だよ?」
そう言ってグリップを彼のほうに向けるメイ。しかし、メイの異常としか言えない行動に私と同じように激しく動揺しているようで、銃を受け取ることも、それ以外の何かをすることもできない。
「......?あぁ、リッケスさんの度胸を試す必要はよく考えたらないのか」
そういいながら銃口をこめかみに充てて、また撃鉄を起こすメイ。カチンという音にようやく我に返ったリッケスが手を伸ばして止めようとする。
「ま、待て!それ以上は____」
___カチリ
そして、また静寂だけが残る。また、「ハズレ」だ。
「私に度胸があって、運が長所であることを証明できればいいんだもんね」
もはや誰かに話しているというよりも独り言といった感じだ。メイの目は濁っているわけでもなく、狂気を孕んでいるわけでもない。本当に自信からくる行為だということがわかる。だからこそ......狂っているようにしか見えない。
____カチン_____カチリ
もう、誰も動くことができなかった。止めなきゃいけないというのはわかっているのに、メイの謎の迫力に気圧されてしまって、動けない。呼吸がうまくできない......息、吸わないと......
____カチン_____カチリ
4発目もハズレ。あと一回。次は1/2で、メイを確実に殺す鉛の玉が彼女の脳天を貫いてしまう。止めなきゃいけない。止めなきゃ「カチン」止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ止めなきゃ________
______カチリ
ハズレ。またしても静寂が広がったのと同時に、 今度は安堵の雰囲気が広がる。動けなくなってしまっていたリッケスもようやく緊張が解けたようで、メイに声をかける。
「嬢ちゃん、あんたの覚悟と長所はよくわかった。あんたを冒険者と認めよう。だから___」
そう言って握手を求めるために片手を差し出そうとするリッケスを、銃を持っていないほうの手で制すメイ。
「6発中1発のアタリを引かずに5回引き金を引ける確率は1/6。ちょうど一発目でアタリを引く確率と同じだね?」
「え?あぁ.....それがどうしたんだ?」
「サイコロで狙った目を一発で出すのとも同じ。そんな確率を引いた程度で、運が長所とは言えなくない?」
「は?何言ってんだ?」
「わからない?つまり_____」
そう言ってカチンと音を鳴らしてさらに撃鉄を起こすメイ。この音が響くのは6回目。つまり1/1、確実に「アタリ」だ。
「馬鹿野郎!!」
そう叫んで素早く飛び出したリッケスをバックステップで軽くかわし、引き金を._______
___________カチリ
_______引いた。
しかし、広がるのは静寂のみ。不発。6発目までも、「ハズレ」だったのだ。
直後、
ウオオオオオオ!!!!!
傍観していた冒険者たちが大声で叫びだした。スゲーだの、やるなーだの、口々にメイのことをほめてはいる。
「チッ、止めに入りもしなかった悪趣味なやつらが....」
「よ、よかったぁぁぁぁ......」
今度こそ緊張から解放された私は、ふらふらとカウンターに座り込んでしまった。メイは騒ぐ冒険者たちを満足そうに眺めた後、近くの机に上って銃のシリンダーを回転させると銃口を天井に向け、宣言した。
「改めて!私の名前はメイ!帝都最強の名前をもらいに来た!!!」
そう言って引き金を引くと軽い破裂音が響き、彼女の頭を貫くはずだった弾丸が天井に向かって飛び出して行った。
______________________________________
「っていうのが私とメイさんの出会いでしてー」
クランの加入報告のためにギルドに来たついでに、メイのことについて質問していた私はカウンターで頭を抱えるしかなかった。
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