第20話 獣人の女③
通りの中央にある騎士の彫像の陰が色濃い。
まだ残っている屋台の一つに、干からびた果実や香草の束が吊るされ、風に揺れていた。
その脇で、捜査官三人に囲まれるようにサダナ子爵は立っている。周りを通りすがる人々の身なりは決して裕福とはいえず、金の刺繍が所々入った服を身にまとう貴族のサダナは、いかにもその場では目立つ存在だった。
しかしサダナ子爵は背筋を伸ばし、腕を組んで沈黙していた。
レムと肩に乗ったギリーがゆっくりと近づいていく。レムが歩くたび、はがれかけた石畳を割りかねないほどの音が重く非ビック。
サダナは二人に気づくと、ほんのわずかに眉をひそめ、身構えた。
レムは身をかがめ、あえてサダナを全身で覆いつくすようにして、尋ねた。
「あのミナって女に聞いたが、一昨日の晩は明け方まで起きていたそうだな」
「……それがどうした?」
「トキコウモリが9つ鳴いた頃、表で酔っ払いのケンカが始まった。あんたとミナはその声を聞いたか?」
ギリーがレムを見上げ、眉をひそめる。
「おい、さっきと……ふごっ!」
レムの大きな手が素早くギリーの口を覆う。
ギリーは首を伸ばし、顔を覆う手から抜け出すと、頬を真っ赤にする。
「さっきから貴様! 口をふさぐな! 敬意が足りぬ」
「うるせえ、黙ってろ!」
サダナはレムとギリーのやり合いを不審そうに見つめながら、口を開く。
「……ミナがそんな話をしたのか? 私は知らんな。隣の家で水瓶の割れる音なら聞いたが、ケンカかどうかは知らん」
ギリーの表情が一瞬で変わり、目の中にひらめきが走る。
レムは背を伸ばし、大げさに手を広げる。
「そうか……勘違いだ。忘れてくれ」
レムがサダナに背を向け、サダナを囲う捜査官の一人を手招きする。
ミナの隣家を指さし、捜査官に耳打ちをする。
「昨日の夜、水瓶が割れたか聞いてきてくれ」
「は、はい……!」
捜査官が慌てて駆け出す。
通りの石畳を踏む靴音が遠ざかっていった。
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