鬼刑事の俺が異世界転生して魔女っ子捜査官の助手に?しかもゴーレム。

ハナノネ

第3話 少女とゴーレム①

まぶしい光の中で、視界がゆっくりと焦点を結ぶ。

ぼんやりとした明滅の後、見えてきたのは木造の天井。


瞼の隙間からのぞくと、杖を構えた少女がこちらを見下ろしている。

黒いとんがり帽子に白いリボン。

黒と紫のローブの裾がひらりと揺れ、栗色の髪が光を反射して柔らかく波打つ。

瞳は宝石のように真っすぐ、だがどこか幼い。


「なんだお前……? 仮装でもしてんのか?」

少女がはっと目を見開く。

周囲で茶色と白の毛玉が――どうみても毛玉にしか見えないが、目が二つついている――が、驚いたようにくるくると飛び回る。

少女の杖を握る手が小刻みに震え、次の瞬間、顔を輝かせた。


「成功だあ!」

少女は歓声とともに両腕を上げる。

二つの毛玉がくるりと宙返りし、どこから取り出したのか紙吹雪を散らす。

「ふふふふ」

少女は満足げに胸を張る。

「おい、どうなって……」

身体を起こそうとした瞬間、視界が揺れ、体が軋む。

重い腕が持ち上がり、床がきしんだ。

その拍子に、少女がよろめいてレムの腹の上から転がり落ちる。

小さな悲鳴があがる。

「急に体を起こすな!」

少女は痛そうに尻を押さえながら睨み上げてくる。

「なんで俺の体に乗ってるんだよ。ここは……病院、じゃねえな?」

部屋の中にはフラスコや見覚えのない文字の背表紙の分厚い本、ガラスの瓶に詰められた乾いた草や羽、奇妙な仮面、淡い光を放つ鉱石。

窓から射し込む光が、魔法陣を描いた机の上に斜めの影を作っている。

「吾の研究室だ!」

少女は言う。

「研究室?」

「そして貴様は、吾の助手となるゴーレムだ!」

「ゴーレム?」

何を突拍子もない事を――山辺は首を振った。

「察しの悪い奴だな」

少女が金細工のほどこされた先の丸い杖を手にし、死先を軽く振る。

フラスコの中の水が音もなく飛び出し、空中で丸い渦巻きを描く。

渦は次第に平らな面へと変化し、水鏡となって彼の顔を映した。

「水が……はあ? なんだこりゃ!?」

そこに映っていたのは、赤褐色の土で作られた人型。

顔はごつごつとした仮面のようで、頭や肩に苔や小さな草が生えている。

指を動かすと、水鏡の中の土人形も同じ動きをする。

目を動かせば、そいつもこちらを見返す。

「あ? え?」

「鏡だぞ。よく見るがいい。貴様は最高の出来だ」

少女が後ろからのぞき込み、満足げに頷く。

鏡の中でも、その笑顔が輝いていた。

「これは……俺なのか……? はあああああ!?????」

あまりの声の大きさに、毛玉たちがビクリと跳ね、少女の背中に隠れる。

少女が杖を一振りすると、鏡は再び水の渦へ戻り、フラスコの中に吸い込まれていった。

「わかったか! 貴様はゴーレム。そして吾がギリーの忠実な助手だ」

山辺の頭は理解を拒んでいたが、それでもギリーと名乗った少女に問う。問わずにはいられない。

「いや何もわからねえって、なんだこれ? ゴーレムって? な、なに? ここどこ? は?」

「貴様の名前はそうだな……ゴーレムだし、うん、レムにしよう!」

「いや俺は山辺蓮司……刑事で……捜査中に、そう、犯人に殺されて……」

「それは前世の名前だろう。貴様はもう、ゴーレムの“レム”だ」

山辺――レムは己の頬を触った。指で触った感覚は、固く、まるで手袋をして固いものを触ったようだ

「前世だと? 俺は……死んじまったのか?」

「そうだな。事情まではわからぬが、“ヨゥミ"、これは全ての魂の行きつくところという意味だが、そこに行く魂は死者の魂だ。貴様は何らかの理由で死んだはずだ。覚えているだろう?」

レムの瞳が一瞬だけ遠くを見る。

血に濡れた倉庫街。

倒れた自分の手、雨の冷たさ――記憶が断片的に蘇る。

「その魂のうちの一つを吾がゴーレムに入れて……といっても誰でもよかったわけではないぞ? 吾が助手に足る経験を持った魂を選び抜き……そう、貴様は選ばれたのだ! もっと喜ばんか」

「さっきから聞いてりゃ……」

顔を覆い、うつむく。

頭の奥が重く、息がこもる。

右手を振り上げ、床に叩きつける。

「くそがっ! 勝手なことしやがって!!」

木の床に大きなひびが走り、ギリーが驚いて尻もちをつく。

「わっ」

床には拳の跡が深く残っている。レムは己で、その力の痕跡に驚く。

「なんだ。せっかくゴーレムの身体にしてやったのが気に入らんのか? その身体は力も強いし、なんといっても不死身だ。貴様はもう死ぬことはない。あ、でも大量の水には気をつけろ? 溶けてしまうと修復に手間がかかるからな」

ギリーは小さな指でレムの腕や肩を指し示す。

「とはいえ適度な水をやれば、土に埋まった草花の種が芽吹いて愛らしい見た目になるだろう。もしかすると実がなる植物もあるかもな! 吾はエイデンベリーの実が好きで……」

「聞いてねえよ! 何が草だ、花だ実だ!? こんな体になって生まれ変わって、俺はどうしたら……」

レムは頭を抱える。ギリーはそんな様子を気にも留めず、弾むようにレムを指さす。

「だから言ったろう? 吾の助手だ」

「助手?」

ギリーが身をひるがえす。

黒いマントがふわりと舞い、杖を掲げる。

「吾は魔法都市国家ビルディア魔法治安局一課所属 一級魔法捜査官ゲイリィナ・ヴァリドルだ!」

「魔法……捜査官?」

「おっと、吾を呼ぶときはギリーでよいぞ。ゲィリィナなんてババ臭い名前で呼ばれるのはむずがゆいからな」

小さくちっちっちと人差し指を振る。

レムはあきれたように口をつぐんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る